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144/152

144:五百年前の契約

 ランスと一緒に転移してきた男は、今度は別の荷物を開けようとした。

 また、魔法アイテムだ。

 当時、魔法使いに限らず、誰でも強力な攻撃魔法を使えるようにするという方針のもと、作られた武器。


「母上、あれらを攻撃すればいいのですか?」


 カノンの言葉に私は頷く。


「無理のない範囲でお願いできる?」

「任せてください」


 言うなりカノンは魔法で全ての荷物を完璧に凍らせた。


「魔力の配分が上手になったわね。全部綺麗に凍っているわ」


 褒められたカノンは嬉しそうだ。可愛い。


「次はあの人を凍らせればいいですか?」

「うーん、ちょっと待ってちょうだい」


 魔法アイテムの開封を阻まれた人物が、ランスに向かって何かを訴えている。

 兄弟子たちと話していたランスが顔を上げた。


「困った人ですね」


 話を切り上げ、ランスはモーター教の仲間のところへ転移する。

 ランスともう一人の他に、モーター教のメンバーはいない。

 彼らに助けを求めるように、ハリネズミたちも移動し始めた。

 魔法を戻してもらえると思っているのかもしれない。


 私たちもランスに近づいた。後ろからエペやフレーシュも追ってくる。

 ランスは自分にまとわりつくハリネズミの群れを、うっとうしげに見下ろした。


「はあ、私に何を期待しているのです? あなたたちは教皇に夢を見すぎですよ。モーター教はそこにいる枢機卿が勝手に作った宗教です。モーター神も彼が作り上げた虚構の存在だ。そんなものに縋って……可哀想な方たちですね」


 冷たく言い放たれ、ギンギラのハリネズミたちはショックを受けている。


(ランスではないけど、可哀想になってきたわ。反省できた子から、あとで戻してあげましょう。モーター教の教えは根深いので、脱却するには時間がかかるかもしれないが)


 私は心の中でこっそり決意する。


「ランス、さっさとこの者たちを始末しなさい!」


 もう一人の人物が私たちを指さす。そのとき、風が吹いて彼の被っていたフードが外れた。

 眼鏡をかけた神経質そうな、淡い髪色の男性の姿が露わになる。

 彼の顔を私は知っていた。


「エポカ……」


 向こうもこちらを見て、驚いたような顔を見せた。


「おやおや? 吾が輩の名をご存じで? どこかでお会いしましたかな?」


 エポカはじっとこちらを見つめる。

 虚ろな瞳で、私を観察している。


「覚えてない? まあ、五百年も経っちゃったものねえ?」


 もともと親しくはなかったし、顔を覚えられていないとしても仕方がない。

 エペとフレーシュから、ものすごく剣呑な空気を感じるけれど……。


 私の言葉から何かを感じ取ったのだろうか。

 エポカは答えを求めるようにランスを見つめた。

 ランスはいつも通りの、穏やかさを含む微笑みを貼り付けてエポカを見返す。


「ご苦労様、エポカ。あなたの役目は終わりです。もっとも、先生を見つけるという一点において、あなたはなんの役にも立ってくれませんでしたが。これだけ助けてあげたのですから、もう満足ですよね?」

「まさか、この女が」


 私を見たエポカは、信じられないという顔になった。


「はい、私が長年追い求めていた、世界で一番大切な先生です。あなたとの約束は果たしましたよ」

「待ってくれ……! 転生魔法なんて、代償なしに成功するはずがない!」


 たしかに彼の言うとおりだ。

 しかし、エペの転生魔法は奇跡的に成功した。

 フレーシュの膨大な魔力と、エペの命と引き換えに。


 それは、私があの夢で一番ショックを受けた場面だった。


 夢の中で私は、彼が自分の喉を搔き切った光景を目の当たりにしたのだ。

 しかも彼のあとを追ったフレーシュの行動により、さらに魔法が強化された。

 偶然が重なり、本来なら失敗しているはずの転生魔法は成功したのだ。


「ふぅん、そういうつもりで私と契約したんですか。まあいいですけど」


 ランスは今まで見たことのないくらい冷たい表情を浮かべている。


「私はあなたに延命魔法を始めとした魔法知識を求めて、自分の寿命を延ばした。代わりに、あなたは何があってもモーター教の用心棒で居続けることを私に求めた。約束の期限は先生が見つかるまで。これで契約終了ですね」


 言い終わると同時に魔法処理を施された、光り輝く契約証が空中に浮かび上がり、そして破裂した。

 魔法契約は昔よく使われた方法で、破った際のペナルティーが恐ろしい契約だ。

 三番弟子はエポカと魔法契約をしたから、モーター教の教皇で居続けていたようだ。


「ま、待て……!」


 契約の切れたエポカは、焦った声を出す。彼にとって今の状況は、本当に想定外なのだろう。


「実は私、あなたのことが大嫌いです。利用させてもらった身ではありますが、あなたは先生に害しか与えないと思うんですよねえ。そういうわけで、さようなら」


 にっこり笑ったランスは、エポカ目がけて容赦なく雷魔法を放った。

 彼は無属性の魔法や転移などの必要最低限の魔法しか使えなかったはずだが、五百年の間に他属性の攻撃魔法を扱えるようになったらしい。


 それはエポカの魔法知識のおかげかもしれないのだが、ランスは一切の手加減なく雷魔法を放ってしまった。

 五百年間、ずっと一緒にやってきたであろう相手に……。


「はあ、つまらぬものを消し去ってしまいました」


 私はその光景を信じられない思いで見つめていた。

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