142:新たな魔力の気配
大量発生したハリネズミによる、大混乱の中、私はシャールやカノンと一緒に、二人の弟子の元へと移動する。
(今日は体調が悪くなくて助かったわ)
モーター教だけでなく、レーヴル王国の兵士まで動転しており、地上は大変なことになっていた。
「エペ! フレーシュ殿下!」
上から声をかけると、二人がハッとして、猛烈なスピードでこちらを向いた。
「アウローラ!? てめえ、こんなところに来たら危ねえだろ!」
「師匠! もしかして僕を心配して来てくれたの!? 好き! 結婚して!!」
今日も二人は、いつも通りだった。
五百年前から変わらない弟子たちの反応を見ると、どこか安心してしまう。
私はシャールに頼んで、二人の正面に着地してもらった。
ここはハリネズミたちがいる場所から、少し距離がある。
「ねえ、ハリネズミはエペの魔法? どうなっているの?」
おそらく一番事態を把握できているであろうエペは、モーター教の兵士の様子を確認しつつ、私の問いかけに答える。
「ああ、あれは俺の魔法だ。ふざけた魔法アイテムに仕込ませてもらったんだ」
「あの魔法アイテムって、五百年前に使われていたものとよく似ているわよね。というか、モーター教の持ち物にどうやって魔法を仕込んだの……?」
「モーター教のマヌケ共が、あろうことか、粗悪な魔法アイテムの生産と販売をうちに依頼してきたんだよ。おかげでこっちは、改造し放題だ。なかなか楽しい仕事だったし、部下共も喜んでたぜ?」
「エペは昔から、魔法やアイテムの改造が好きだものね」
「ところで、お前はまた旦那連れか。そっちのは誰だ?」
弟子たちを前にしたカノンは、やや緊張した様子を見せている。
「私の息子を怖がらせないでちょうだい」
「へえ、得意属性は水魔法か。グラシアルの馬鹿より見込みあるんじゃね?」
兄弟子の暴言にフレーシュがむっと眉をつり上げた。
「今は喧嘩をしていい状況じゃないわ」
私はエペをたしなめた。
「ええと、状況をまとめると……レーヴル王国にモーター教が攻め込んできたのよね」
「ああ」
「で、その戦いでモーター教は、五百年前の魔法アイテムと似た武器を使おうとした」
「そうだ」
どうしてモーター教にだけ五百年前の知識があるのか。
教皇であるランスが、ろくに活動していないというなら……やはり彼の言っていた、枢機卿と関係がありそうだ。
「でも、魔法アイテムの製造をエペに一任しちゃったばかりに、ハリネズミ生産魔法のかかったアイテムを掴まされてしまったと」
「そのとおり。魔力汚染のない、完璧なアイテムだ。アウローラはああいうの、好きだろ」
「ええ、ハリネズミは大好きよ!」
向こうを見ると、先ほどよりもさらにハリネズミが増えていた。
決着はついたみたいだ。
「フレーシュ殿下は大丈夫?」
私は二番弟子を見つめて言った。
「うん、こっちは決着がついたし、城内も部下たちが上手くやってくれているはずだよ。あとは僕が……」
彼がそこまで話したときだった、不意に新たに大きな魔力が感じられたのは。
不自然に強大な魔力だ。
それに気づいた弟子たちが、それぞれの部下を素早く撤収させる。
「シャール、ハリネズミたちを避難させてあげたいわ」
「……仕方ないな」
「ありがとう」
シャールは新たに覚えた風魔法でハリネズミたちを包み込み、後方へ避難させた。
カノンは大きな魔力が感じられる方向を見据えている。
「この魔力、あいつじゃないのか」
シャールと同じことに私も気づいた。
やがてモーター教の兵士たちがいた場所に、新たな人物が二人転移してくる。
そのうち一人は、私が予想していたとおりの相手だった。
「ランス……?」
おそらくテット王国から転移してきたであろう、私の三番弟子が、これまでにないほど大きな魔力を背負って、レーヴル王国の大地を踏みしめていた。