141:ギンギラに染まる大地
今回の襲撃の責任者で第一位の聖人であるリッドは混乱していた。
目の前で意味不明な事態が起こっているからだ。
強力な氷魔法に……増殖する、趣味の悪いハリネズミたち。
(そんな、こんなはずではなかったのに。一体何がどうなっているんだ。早く枢機卿に報告して指示を仰がなければ!)
本来なら自分たちが優勢なはずだった。
相手は知識に乏しい、ただの魔法使いの集団だし、こちらには枢機卿の用意してくれた武器がある。
これらの武器は、素人でもそれなりの魔法が使えるようになる代物だと告げられていた。
これだけの差があれば、レーヴル王国の者たちなんて簡単に倒せると思っていた。
つい先ほどまでは。
しかし、今や形勢は完全に逆転した。
「おい、どういうことだ!」
リッドは武器を運んできた、灰色のフードを被った商人たちを怒鳴りつける。
彼らは商人だが多少の魔法知識があり、後ろ暗いことも多く為している連中だ。
だからこそ、枢機卿は彼らに武器を手配させた。
だというのに、どうして優れた魔法アイテムが、ハリネズミ大量生産アイテムになっているのか!
すると、フードを脱いだ商人たちが、揃って大笑いし始める。
「ギャハハ! 実験成功じゃん! エペの旦那のもくろみ通りだな!」
「ギンギラのハリネズミ、かっけえ! なあなあ、何匹か捕まえてきていい? 売ろうぜ!」
「馬鹿! 途中で元に戻ったらやべえだろうが!」
商人たちはリッドを無視して、仲間内で盛り上がっている。
「お前たち、モーター教に刃向かう気か! ただで済むと思うな!」
リッドは怒りを露わにし、商人たちに抗議する。
だが、商人たちはゲラゲラと下品に笑うばかりだ。虫唾が走る。
「俺らは、エペの旦那についていくだけだしー? てか、モーター教なんでどうでもいいし。なあなあ、この調子でハリネズミ増やさねえ?」
「許可できない。ボスが『モーター教の奴らにしか使っちゃ駄目だ』って言ってただろうが。レーヴルの兵士に使うのは禁止だぞ」
「じゃ、聖騎士と聖人ならオッケー?」
「そういうことだ」
「ヒャッハー!」
レーヴル王国とモーター教が対立する場所に、また新たな混乱が巻き起こった。
「あはは、聖人ってたいしたことねえんだなあ。エペの旦那の方が千倍強えわ」
「いや数億倍だろ。見ろ、聖騎士どもが逃げていくぞ」
「回り込めっ! 回り込めーっ!」
商人たちは抵抗する聖人や聖騎士の手に、魔法アイテムの武器を無理矢理握らせる。
「ハリネズミ砲、発射! アッハッハ!」
この日、極悪な商人たちが、たくさんのハリネズミを生み出し、大地をギンギラに染めた。
ついでに記すならば、刺激の強すぎるこの光景は歴史に残り、後世まで語り継がれることとなった。