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138/152

138:欠陥アイテムの流出?

 話しすぎて、ちょっと疲れてしまったが、記憶が戻ってからは体調が安定している。

 今日はベッドへ逆戻りしなくても大丈夫そうだ。


「それで、私としては、エポカというエルフィン族が現在も生きているのか確認したいの」


 また前世のように、害のある魔法アイテムをばらまかれては困る。


「それと、ランスからも、もっと詳しく話を聞きたい。でもまずはレーヴル王国の様子見からかしらね」


 次から次へとやることが出てきて大変だが、放っておくわけにもいかない。


「そういう理由なら、ラムに協力する。引っ越しは、あとからでもできるからな」


 すると、話を聞いていたバルが「あ……」と声を上げた。


「そういえば、セルヴォー大聖堂の司教がクビになったらしいよ。とりあえず今は、リュムル枢機卿って人が、司教を代理でやっているとか……」


 ランスが有言実行したらしい。

 そしておそらく、彼が無茶を言って、リュムルという人がセルヴォー大聖堂の立て直しに奔走しているのだろう。


「あと、国王も変わるっぽいね。今の国王の親戚に」


 部屋にいる全員が、黙り込んでしまった。


(あの子ったら、本当に国王と司教を変えてしまったのね)


 おかげで国内は大混乱みたいだ。


「でも、市井ではここ数日、ずっと教皇の来訪を祝福する祭りが開かれているんだよ。カオスだよねえ」

「お祭り……」


 こんなときでなければ、覗いてみたかった。


「ラム、祭りに興味が?」

「ええ。今世では行ったことがないから気になるの」

「人が多いだけの行事だ」

「そんな身も蓋もない」


 メルキュール家の人たちは、イベントごとに興味はないらしい。


「私とラムは、様子を見にレーヴル王国へ向かうが、フエはこの家で待機していろ。何かあったときは、魔法ですぐ連絡するように。バルは引き続き情報収集に当たれ」

「わかった。でも、シャール様と奥様の、二人だけで大丈夫?」


「カノンを連れていく」

「ああ、前回もレーヴル王国へ行ったから、僕らよりも慣れているね」

「使えないようなら送り返す」


 またそんなことを言っている。

 でも、カノンなら大丈夫だろう。彼もどんどん力をつけてきている。


 私はカノンを呼びに行き、レーヴル王国の件を話した。


「わかりました。あそこの国は、もう一度訪れてみたかったんです」


 カノンは快諾してくれ、私たちは前回と同じ転移魔法でレーヴル王国へ向かうことになった。



 ※



 国に戻ってからしばらく経ち、フレーシュは王位争いの真っ只中にいた。

 父王の同意を得て、次期国王として宣言したのが少し前。

 同時に、王弟がどこからか軍勢を従えて王宮に攻め込んできた。


(それは全部凍らせたからいいけど……)


 問題は、モーター教が彼に加勢し始めたことだった。

 あとは、国内の魔法使いを嫌う人々が、モーター教に請われて協力している。


(まあ、僕の敵ではないけど)


 明らかに優位にフレーシュは王位争いを切り抜けてきた。

 だが、今朝から様子がおかしい。

 外にいる部下の魔法使いたちが、敵に押されていると報告があった。


(何が起きているの?)


 城内のことを近くに控える部下に任せ、フレーシュは前線へと転移する。


(幸い内部は、ほぼ被害が出ていない。王弟は喚いているだけで何もできない人だから、部下たちだけで大丈夫)


 前線に到着すると、そこには聖人と聖騎士、その他の兵士たちがずらりと並んでいて……。

 こちらを威圧するように攻撃魔法を放っていた。


(普通の兵士たちも、多少の魔力はあるみたいだな。さすがはモーター教。二枚舌)


 いくつかは街の建物に当たっている。


(あの野郎……)


 フレーシュの怒りに反応し、氷の魔法が手前にいて攻撃していた聖騎士たちを襲った。

 聖人は八人。

 先にレーヴル王国へ来ていた二人を除いたメンバーだろう。まだ補充はされていないようだ。


(聖人の第一位がどんなものかはわからないけど、二位以下は問題ないね)


 厄介な相手から、フレーシュは片付けていく。

 奥にいる普通のモーター教の兵士たちは、不気味な静けさを保っていた。


(指揮しているのは誰だろう)


 見たところ、それらしき人物はいない。

 不思議に思っていると、敵側の一番奥に大量の荷物が運び込まれてきた。


(なんだろう、あれは)


 開封された中身を兵士たちが順番に手に取っていく。武器か何かのようだ。

 フレーシュは望遠の魔法で、向こうの様子を探る。


(やっぱり武器みたい。魔法使い相手では、気休めくらいにしかならないだろうけれど。あの武器の形状はどこかで見たような……)


 微妙にうねった形状の、光る剣。

 神経を逆なでするような嫌な形状。


(あれは、五百年前の……)


 忘れもしない、アウローラの命を奪った魔法アイテムだ。


(どうしてあれが? 過去に酷い大惨事を引き起こした魔法アイテムなのに。師匠が命がけで国中の人間の命を守ったのに。なんで、そんなものをモーター教が持っているの?)


 怒りで吹き飛びそうになる理性を、懸命に押しとどめる。


(あれだけの事件を起こしたのに、誰も何も学んでいないの? また使う気なの? 五百年経ったら、忘れてしまった?)


 抑えきれず漏れた魔力のせいで、足下から氷の膜が四方八方に広がっていく。


(僕の前で、あんなふざけた魔法アイテムを使うなんて。一つ残らず潰してやる)


 兵士たちが次々に魔法アイテムを起動させ、彼らの持つ武器の刀身が光を帯びていく。

 あの先端部分から魔法を発射できる仕様なのだ。


 どこからともなく「突撃」の声が上がり、兵士たちが一斉に攻撃を開始する。

 しかし、その瞬間、事件は起こった。


 魔法アイテムで攻撃をしかけようとした兵士たちが、どんどん真っ黒な煙に包まれていく。


「なっ……?」


 魔法アイテムの不具合だろうか。

 方々から悲鳴が上がり、兵士たちは混乱状態に陥った。

 聖騎士たちも若干巻き込まれている。聖人たちに動きは見られない。


(なんだ、これは?)


 様子を探ろうにも黒い煙が多すぎて、何も確認できない。

 フレーシュは部下たちに、一旦待機命令を出した。あんな得体の知れない状況の中に、突っ込ませるわけにはいかない。


 しばらくすると、ようやく煙が引いてきた。

 だが、中から現れたのは……兵士ではなく……。


「は? なんだあれ」


 大量の、やけにギラギラした、全身が金と銀の……大きめのハリネズミの群れだった。

 ハリネズミたちはパニックを起こしたように右往左往している。

 なんとなく、アウローラが見たら「可愛い」と喜びそうな気がした。

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