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134:戻った記憶

 魔法は、魔法アイテムでは実現できないこともたくさんできた。

 決して時代遅れではなく、可能性に満ちていた。

 けれど、それはきちんと修行した、熟練の魔法の使い手限定のこと。

 中途半端な魔法使いや普通の人は、自分の技術を磨くより、魔法を覚えるより、楽な方へと走った。それだけ。

 わかっていたけれど、当時はそれなりに辛かった。


 弟子たちが揃って私の過去について話さなかったのは、本当に私を気遣ってという理由からだったのだ。


(あの子たちには、本当に申し訳ないことをしたわ)


 急激に蘇った記憶の波に押され、私の頭痛と気分の悪さは頂点に達した。

 夢の中だというのに自分の呼吸が荒くなるのがわかる。

 苦しい……悲しい……。

 真っ白な世界でもがいていると、不意に力強く名前を呼ばれた気がした。

 体を揺さぶられるような感覚と共に、意識が浮上していく。


「ラム、どうした!?」


 目を開くと、間近にシャールの顔がある。上からのぞき込まれているようだ。

 呼吸はまだ荒いままで、体の震えも止まらない。

 けれど、頭痛と気分の悪さはなくなっていた。


「シャー……ル……」


 もしかして、うなされていたから、心配して起こしてくれたのだろうか。

 周りが仄かに明るいのは、彼の照明の魔法のせいらしい。過去に私が書いた本に載っていた魔法だ。

 安堵から、肩の力が抜ける。

 なぜだかわからないが、涙が出てきた。

 ただでさえ、不安そうだったシャールがますます動揺する。


「具合が悪いのか? すぐに医者を……いや、薬の方が早いか。実験室にストックしてある魔法薬の手配を」

「大丈夫よ、シャール。体調は……不思議と悪くないの。むしろ、眠る前よりもよくなっているわ」


「だったら、なぜ泣いている。無理をしているのだろう」


 私はゆっくり上体を起こし、ゆるゆると首を横に振った。


「自分でも、どうして涙が出ているのかわからない。ただ、あなたを見たら、ほっとして……」


 困惑気味のシャールがそっと手を伸ばし、私の涙を拭った。


「夢を見ていたの。五百年前、実際に起こった出来事の」


 何かに気づいたシャールに向かって、私は頷く。


「私、ほとんど全ての記憶思い出したわ……」


 ショックが大きくて、今はどうしても弱気になってしまう。シャールを困らせたいわけではないのに。


「ラム、無理して話さなくていい。見ていればわかる。おそらく、ろくな記憶ではなかったのだろう」

「シャール……」

「何が起きたのか、私には想像もつかないが……お前の弟子たちが黙り通したくらいだ」


 黙り込んだ私は、そっと頷く。


「そうね。新たに思い出せた部分は、少し苦しい思い出だったわ」


 前回見た夢とも通じる、私の死因に関係する出来事。

 そしておそらく、今現在、魔法使いたちが虐げられている事情にも繋がる事件。

 私は国の破滅こそ食い止められたが、当時の人々の価値観までは変えることができなかった。

 だから、モーター教が生まれて広がり、魔法使いたちは当時の比ではないくらい虐げられるようになってしまった。


(私は誰も救えていなかったのね)


 何が伝説の魔女で最強の魔法使いだ。

 私は何も成せないまま倒れ、二人の弟子を犠牲にし、残った弟子をも苦しめただけ。

 苦しさに押し殺されそうになっている私を、そうと知ってか知らずか、シャールが胸元に抱き寄せた。それだけで酷く安心する。


「あの、シャール」

「現代で生まれ育った私は、お前との過去を共有できない。だが、どのような真実があろうと、お前を支えると決めている」


 彼の温かさに触れ、私の涙腺がさらに緩む。

 こんな情けない姿は、できれば見せたくなかったのに。

 私は少しずつシャールに寄りかかり、彼の優しさに身を委ねた。


「眠れないなら傍にいるし、うなされたら起こしてやる」

「ありがとう。落ち着いたら、あなたにもきちんと話すわね」

「さっきも言ったが、無理をする必要はない」

「私が聞いてほしいの。そして……前世でやり残してしまったことを、今度こそ成し遂げたい。今の私の体では、どこまで可能かわからないけれど」


 シャールは静かに私の話に耳を傾けてくれた。

 そうして、私は彼にもたれかかったまま、二度目の眠りについたのだった。

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