132:戻りそうな記憶
真っ白な螺旋の中、深く深く私の意識は沈んでいく。頭が痛い。
何かを思い出せそうな気がするのに、思い出せず焦りだけが募る。
いつにも増して焦燥に駆られるのは、今世にいるはずがないと考えていた三番弟子に会ったからかもしれない。
(モーター教を立ち上げたのは、エルフィン族の枢機卿なのよね? 師匠以外にもエルフィン族がいたの? でも、私、その人を知っていたような……)
〝魔法使いに頼らなくても、回る世の中を作ろうと思うんです〟
ふと、誰かの声が聞こえた気がした。
あれは誰が言った言葉で、私はいつそれを聞いたのだろう。
思い出そうとすると、頭の痛みが増した。
酷く気分が悪いと感じていると、以前の夢と同じように断片的な光景が見えてくる。
五百年前の王宮、演説する魔法アイテム学者。
彼を賞賛する人の群れ。
人々に失望して減っていく王室付きの魔法使いたち。
(弟子たちは私に、辞職しろとせっついていたっけ)
よくわからないけれど、彼らとの断片的な会話が浮かんでくる。
アウローラは師匠であるフィーニスの跡を継いで、王室付き魔法使いになった。
そこまでは覚えている。
そして、私の他にも、同じように働いている魔法使いはいた。けれど……。
消えては浮かび上がる昔の光景の中で、最後まで王宮に残っていたのは、私一人だけだった。
さらに頭が痛くなる。
もっと深いところの記憶が掘り起こされているからかもしれない。
(ああ、思い出せそう。ラムがアウローラとしての記憶を思い出したときと、同じ感覚だわ)
それは魔法使いとしての勘だった。
三人の弟子と会ったことで、記憶の蓋が開き始めている気がする。
(そうだわ、私……)
王宮に残った最後の魔法使いで、ランスの言ったとおり、職務として人々を守って……。
倒れて、落下して、弟子たちの声が聞こえて。
今にも泣きそうなあの子たちに「大丈夫よ」と声をかけたかった。
けれど、もう体のどこも動かせなくて。
そのあと、たぶん、転生したのだと思う。
(あんな最期だったから、弟子たちにトラウマを残してしまった。今更どうにもできないけど、あの子たちが皆無事で、生きていてくれてよかったわ)
私はさらに、深い記憶の中に落ちて、当時のことを思い返した。