129:始まった歓迎会
きらびやかな会場の隅っこで、私はシャールと一緒に並んで立っていた。
目立つと面倒な人たちに絡まれるかもしれないので、静かかつマイペースに軽食をつまんだり、ドリンクを飲んだりしている。
「んー。やっぱり王宮のドリアンジュースは別格ね」
「お前、また変なものを飲んでいるのか」
「美味しいわよ」
「よせ、グラスを近づけるな」
シャールは嫌そうな顔をして、赤ワインを飲み干した。
「国王やモーター教の関係者は、あとで出てくるのかしら?」
「そうだろうな」
ちらちらとこちらを見てくる貴族はいるが、特に声はかけられない。
(学習した人たちもいるのね)
最近はメルキュール家が各方面で活躍、もとい私が意地悪してきた貴族にお仕置きしているため、水面下で噂が出回っているのかもしれない。
私はシャールの隣で国王たちの登場を待ちつつ、ドリアンジュースをおかわりした。
「そろそろか」
シャールが視線を会場の中央にある階段へと向ける。
通常、国王はファンファーレとともに階段の上から登場するのだ。
城のパーティーに二度参加しているのでさすがに覚えた。
すると、ちょうどタイミングよく楽団が演奏し始める。
同時に四人の人物が段上に姿を現した。
国王、セルヴォー大聖堂の司教、そしてあと二人。
影になっていてわかりにくいが、若い青年と中年男性のようだ。どちらも豪奢な服に身を包んでいる。
「二人のうちの、どちらかが教皇なのね」
彼らはゆっくりと階段を下りてきた。
「あの若い男のほうだな。もう片方は枢機卿あたりじゃないか? どちらにせよ、この小さな国に来るには大物すぎるな」
「教皇って、私やシャールと、そう年齢が変わらないように見えるわ。本物なのかしら?」
「いずれにせよ、テット王国はモーター教に目をつけられたらしい。メルキュール家が関係しているかもな」
教皇たちが全員の拍手に迎えられる。
「彼らがどんな動きを見せるか、ここで様子を見守っていましょう」
私は三杯目のドリアンジュースを手に取った。
国王が一歩前へ進み、教皇たちを紹介する。
「皆、本日はよく集まってくれた。ここにおわす方々こそ、モーター教総本山を代表する存在。リュムル枢機卿、そして教皇聖下であらせられる!」
国王の言葉に、会場がどっと沸いた。
教皇はゆっくりと周囲を見回す。まるで、何かを探しているかのように。
(あら? 教皇になんとなく見覚えがあるような……そんなこと、ないわよね。他の国から来た人だし)
すると、そこでセルヴォー大聖堂の司教が前に歩み出てきた。
「モーター教徒にとって素晴らしきこの日に、この聖なる会場に相応しくない不届き者がいる!」
雲行きが一気に怪しくなった。
そもそも、ここにいるのは、招待された客ばかりだというのに、何を言っているのだか。
(でも、司教にとって、もっとも不届き者に近いのって。メルキュール家なんじゃ……)
同じことを思ったのか、シャールも注意深く司教の動きを見ている。
「教皇様、お聞きください! この中に、極悪な魔女が潜んでいるのです!! 奴はこの国の王やモーター教を敬わず、恐ろしい悪臭の呪いを振りまき、人々を苦しめている!!」
ああ、これは間違いなく私のことだ。
国王は司教の後ろで「うんうん」と大きく首を縦に振り頷いている。
彼らは何も反省しないどころかモーター教総本山に泣きつき、今この場でメルキュール家を断罪しようとしている。
(そういえば、国王と司教にかけたドリアン臭の魔法が消えているわね。誰かが解いたのかしら? でも、現代の魔法使いでアレを解除できる人なんている?)
私はいつでもドリアン臭の魔法を放てるよう身構えた。
「出てこい、魔女め! 貴様にモーター神様の鉄槌を下してやる!」
教皇や枢機卿がいるからか、司教はいつにも増して偉そうだ。
以前はドリアン臭にまみれてパニックになっていたのに。