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122:ドリアン事件の余波

 大切な人の手がかりを探そうと、総本山であるクール大聖堂に戻った教皇を迎えたのは、不可解な報告に頭を悩ませる、部下のリュムル枢機卿の姿だった。

 四十歳手前の彼は以前、行方不明になった聖人について知らせに来た人物であり、枢機卿の中では一番年齢が若い。

 特にどうでもいいので通り過ぎようとしたが、彼の呟いた一言が教皇の興味を引いた。


「ドリアン臭を発生される魔法? そんなの聞いたことがないし、この報告はいたずらではないのか? 確認に行くのも手間だし無視するか……」


 教皇は彼の後ろから、報告書らしき手紙をのぞき見る。それに気がついたリュムルが悲鳴を上げた。


「うわぁっ!? きょ、教皇様!? 全く音沙汰がないと思ったら、やっとお戻りになられましたか。あなたのことだから無事だと知っていましたが、私が上から怒られてしまったんですよ? 教皇様をお一人で外出させるなんて何事だって」

「どこで何しようが私の勝手だというのに。最近の枢機卿は随分増長しているようで。あまり酷いようでしたら消した方が……」

「ひっ、ななななな、なんて物騒な冗談をっ」


 本気にしないリュムルを教皇は薄ら笑う。


(二百年前くらいに、実際やった経験があるんだけど)


 そのことは教皇と、最上位の枢機卿の間でだけの秘密となっている。


「さて、冗談はさておき――ドリアンの報告書を私にください」

「それもまた冗談ですよね?」

「……本気です」


 どちらも。


「はあ、処分するつもりでしたからいいですけど。そんな報告をどうするんです?」


 教皇はゆったり微笑んでリュムルを見た。


「あなたは知る必要のないことです」

「ひいっ!」


 ぷるぷる震えるリュムルを尻目に、教皇は報告書を読みながら大聖堂の中にある部屋へ移動する。


「テット王国にて、国王と司教からドリアン臭が発生。王国内の魔法使い、メルキュール伯爵夫人が犯人。聖騎士に極悪魔力持ちの討伐を依頼する。懐かしいな、異臭を発生させる魔法か。先生がよく悪人たちに使っていたっけ」


 テット王国に行ってみたい。


「それにしても、夫人……?」


 探し人と同一人物なのか、同じ魔法を扱う別人なのか判断がつかない。


「よし、この報告書については、私が調査しましょう」


 教皇の姿は、聖人や枢機卿以下にはほぼ知られていない。

 しかし、普通に姿を現せば、面倒な混乱を招くだろう。


(うーんちょうど二位と十位、聖騎士の一人が欠番になりましたから、彼らの地位を使わせていただきましょうか。聖人も目立つかな……なら、私は聖騎士ということで)


 教皇はすぐさま自分が装う聖騎士の設定を作り、テッド王国にあるセルヴォー大聖堂への転移を決めた。

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