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小学5年生 2

 どうしてこうなったのだろう?

 目の前には小学五年生が数名三角座りをして、まじめな顔をして俺の言葉を待っている。

「あー、えー、そのまずはだな……ですね……」

 その中にもちろん友人の島田の姿もいる。おい!島田!! 確認したとおもったら走り出して!何を説明しているのかと思ったら、今度は山やんがすげーよ!!何か教えてくれるってっ!! 説明が曖昧じゃねぇか!! 周りの小学生もなんでそんなに人の話をすぐ鵜呑みにしてそんなまじめに聞く体勢になっているんだ! お前ら授業なんて全然聞いてないだろう!! そのまじめそうな姿勢を授業に1割でも向けろ!! そして、俺考えろ! い!? 何を選んで説明すれば

……! あー、うーん、えーっと……

「み、皆さん、体育の時にまず準備運動をしたりする…よ…ね?」

 小学生に言い聞かせるように語尾が柔らかく、いや俺もいま小学生のはず! あと皆!ちょっと反応してくれるとおじさん――いや、同世代?いや、もうおじさんでもいいや――嬉しいんだけど!!同世代?ならいいか。

「ふぅ、ごほん。この準備運動はまじめにやっている奴もいれば、適当にやっている奴もいるな?」

 ここで小学生達が、お前まじめにやってる? 俺わりとやっているつもり、そっちは? 俺はもちろん適当、こっちはやっていると思うけど、やってもやらなくても効果はあんまり変わらないかな? 俺はやるとちょっと動きが変わるとおもうよ?わかんないけど。

 などちょこちょこと聞こえる。

「というように準備運動に対して皆意見がいくつかあると思う。そこで準備運動の大切さ!を説く前にとくに準備運動としてやってほしい部位がある」

 ここでとめて、少し間を空ける。

 それは?どの部位?とちょっとした間でどれだ?どこだ?何だ?と考えてくれたらいいなぁ、と思いつつ。

「それは足首である」

「おぉ、それさっきやってもらったところ!」

 と島田が大きく食いつく。

「そう、足首である!」

 島田の食いつきに応えるようにもう一度応える。

「足首を侮ってはいけない!」

 熱がこもりつつ、足首?他の場所とか大事な場所とかありそうだけど? でもちょうど島やんが何かしてもらったところと同じ場所? 同じ場所だから足首っていっているとか? 何でだろ? という声が聞こえてきたのでビシリと一言、そこから続けて

「体育の時、教師が準備運動を行うだろう!!

その準備運動というのもとても重要なものだっ!手首、足首を回したり足や腕を伸ばしたりするだろう!それをな――」

 とここでスイッチを切り替えたように我に返る。柔軟に関しての基礎知識であるが、これには年が進むごとに少しずつ変わっていったものである。

 自分がはじめ学んでいたときは、運動前のストレッチは運動のパフォーマンスを下げるという意見が出ていた。この考え方については少し懐疑的であったが、論文などで発表されておりこの意見がかなり広まっていた。

 が、その意見が出てから10年もしないうちに運動前のストレッチの意見が180度変わって有用だという答えが出てくる。こちらはストレッチを科学するという国際的な文献に載っていたもので、ストレッチの有用性が書かれていた。

 だが、その考えは今の時代に合うだろうか?

 いや――

「それを何故行うのかというと、運動前に行うのは怪我の予防と運動するときの動きがよくなるからである!」

 小学生にそんな詳しく話すわけじゃないから別にいいじゃないか。発表するようなことでもない。今目の前にいる人を良くしようとすることに情報の葛藤など。

「おー!山やん、体育の先生みたいなこといってるじゃん! 先生だー!」

「ふふふ、煽てるなよ。そこで正しい足首の回し方を説明したい」

 よっこいしょと、片足立ちになる。が、体幹が安定してないのかかなりぐらついてしまう。仕方がないので、自分も座り足を組むようにして足首と足先をつかむ。

「このように、まず足首をそっと掴みます。もう片手で足の先を掴みます。」

 目線が合うようになり、全体を把握し辛いが皆が同じように踵と足先をつかんでいると思い続ける。

「次に、足先を大きく円を描くようにゆっくりと回します。この時、足の先を回すのではなく、足首を持っている手も意識して、足首が動いているというイメージでゆっくり回すんだ。回すときの速度は5秒から10秒くらいかけて1週させるくらいだ。3回ほど行う」

 ほかの子たちがやっているだろう。自分も足首を回して説明し終える。

「さて、みなやってみたと思う。ということでちょっと立ってみてもらえるか?」

 といい、まず自分が立ち上がる。

 ? なんだなんだ?と皆いいつつも立ち上がる。

 ん?あれ? なんか変? なんだこれ?

 とあちこちで変化? 疑問の声が聞こえる。

「変化を感じてくれたのであれば、みなまじめにやってくれたのだと思う。足首を回したほうの足首は、なんというか、軽い感じがすると思う」

 おぉ? これが軽いっていう感じかー!? なんかふわふわする! すっごい違和感があるー!

 と、感想をきゃっきゃしながら言い合っている。うんうん、そういう風に反応してくれるととても教えがいがある。というか素直に反応してくれて嬉しい。

「では、変化も体験してもらったところで反対側の足首も回していこう」

 自分が座り、続けて皆が座り、各々でゆっくりと足首を回していく。

「両足をやってみたと思うので確認してみようか」

 とまた立ち上がり、変化を確認する。

 皆立ち上がり、うぉー、両足も同じになったー! すげー!ぬるぬる動く! 軽い軽い! これならまだまだ動けそう! じゃあ、またさっきの続きやるかー!

 ケイドロの続きが始まるらしい、切り替えが早くて素晴らしい。

 ふふふ、少し休めたことと足首を回したことで俺のパフォーマンスも上がっていることだろう。今度は逃げ続けてくれる。小学生どもよ、体は子供、頭脳は大人、大人のずるい本機を見せてやろうっ!!



 またすぐに捕まってしまった。



 ぜへぇ、ぜへぇ、ぜへぇ……

 さっきより動けた、動けたが体力が続かない、そして動けた!がっ!気づいてしまった、あまりにも筋力も体動かすための神経もないっ!ばかなっ!夢幻だとしても30年以上若返っている体があの頃の俺よりも動けないとは……!?


 息を整えながら哀れな俺と真逆に大はしゃぎしながら軽快に走り回る者を見る。

「わっはっはっはー!軽い軽いぞぉぉ!ぬほおおお!」

 おかしい、俺と奴(島田)とでこれほどの性能の差があるとは……!!というか極端に変わりすぎだろう!おかしいだろう!

 捕縛スペースで軽快に走り逃げ続ける島田を見る。

 それを警察側の2人がきゃっきゃと追いかけている。

 この牢獄に収納されたのは唯一俺一人。

 島田以外の皆も例外なく元気よく走り回っている。

「はぁ、ふぅ!柔軟でもしながら見ていよう」

 息を整えながら、まずはふくらはぎの腓腹筋、アキレス腱を伸ばすようにストレッチをする。息を止めず、自然の呼吸で筋肉が伸び始めているのを感じる。その伸び始めたくらいの強さで伸ばすのを止め維持し、15秒ほど数える。

 ……か、固いな、それに筋肉が全然ないな。

 記憶と現実の齟齬を確かめるように他の部位も伸ばしながら確かめる。

 全然伸びない、筋力も全く足りない。若い頃ってこんなものだったのだろうか。そういえば、小さい頃は運動嫌いだったような。こういうもんか?

 下半身を確かめるように伸ばした後、腰回りをねじりながら動かし可動域と筋量を確認し終えて若人たちに目を向ける。

 各々、姿勢は違えどほとんどが地面に寄りかかるように息を切らせている。皆汗だくだ。

 全力で走りつかれたのだろうか、そうだとしたら皆若くて元気がいいっ! 見習いたいものだっ!

 例にもれず島田も地面に寄り掛かる……どころか這いつくばってずるずる、どうしたのかと思ったら、そのゾンビのように這い逃げる島田をよたよたよたとゾンビのように追いかける者がいる。

 鬼だろうか、ゾンビの追いかけっこになっているが、すぐに決着がつく。鬼のゾンビが倒れこむようにして島田の足を掴んだのだ。ナイスガッツだ。

「ぐわぁぁぁぁ!! あ、あとは山やん、頼んだぞぉぉ!! がく……」

 最後の最後まで力を振り絞った両者、これでケイドロも終わった。

 そして、すまない島田よ。俺は一番最初に捕まってしまったのだ、そして誰も助けに来てくれなかったのだ。だ、誰も、助けに……い、いやその時間を自分の体を見直す時間に費やせたのだ。

「ふぅ!!みんな大健闘したな!疲れたなー」

「ぜー、はー、ぜー、はー……い、いや、山、やん……ずっと最初に捕まって以来、動いてなかったじゃん」

「え、いやそこは誰も助けに来てくれなかったから?」

「ぜー、はー、や、山やん、助けたとしてもすぐに捕まるじゃん? ぜー、今回は、助け続けるより、全力で走り、回る方を選んだんだ、すまないなっ」

「……ふっ、よく俺のことがわかっているじゃないか! いろいろと胸来たぜ」

「ふ、ふふふぅ、そうだろう! でも走りすぎたせいでぷるぷるするぜっ」

「ははは、なら少し休まないとな。ところで島やん――」

 一呼吸しつつ、倒れたままの島田を一瞥し、回りにいるほかの各々倒れたままの皆が呼吸を整えようと胸郭を収縮させている。

「――足首の調子はどうだね?」

「あー、うん、かなりいい感じだよ、すっごく楽になった? って感じ、軽い軽いよっ!」

「お、いいねっ じゃあ、痛みはどれくらい減った?」

 この言葉は少し小さめに話す。周りに響かないように。

「……今日の山やん、どうしたん? どこを見てそう思ったん?」

「今日の走り方、逃げ方を見ててな、足首を庇っている、足首に負担をかけたくないっていう走り方をしているように見えてな。走るのが痛いんじゃないかなーって思ってな。聞いてみたんだ」

「あー、うーん…今はだいぶ痛くないよ、走りすぎてちょっと足首が熱い感じがするけども、痛みそもそもはほとんどない、と思うかな」

「ふふ、そうかそうか、じゃあ後で足首回りを少し冷やしてあげればよりいいと思うぜ」

「なるほどー? わかった、帰ってみたらやってみるよ、どんなふうに冷やしたほうがいい?」

「そうだな、足首回りを直接流水をかけて冷やしてもいいし、濡れたタオルで巻いてもいいし、あとは濡れたタオルで氷や保冷剤をまいてそれで冷やしてもいい。湿布などで冷やすとかアイススプレーみたいなもので冷やすのはあまり勧めない。湿布はそこまで大きい熱は取り切れないし、アイススプレーは表面は冷やしてくれるが、深部の熱をとってくれるわけじゃないからな」

「そうなのかー」

 と小声で喋っていたが、最後の一言は普通の声音で吐き出す。

 周りで二人が何かを話していたのか? どうした?などと気づいて視線を向けてくる。

「ちょっと山やんから、また少しアドバイスをもらってね。また明日、学校で何か教えてくれるらしいぞ! みんな!楽しみだな!」

「んなっ!」

「先生~、明日も山やん先生の授業楽しみにしてますぜぇ!へへへっ」

 おぉ、明日も山先生の授業あるのか! 何教えてくれるんだ?! じゃあ質問もしていいのかな? え、じゃあちょっと気になっていたこと聞いていいのかな? やいのやいの。

「くっ、い、いいぜっ、明日は学校でやってやるぜっ! 聞きたいことも応えられる範囲で答えてやるぜっ!!」

 うひょー!やったぜー! 何聞こうかー! 明日は何を教えてくれるんだろー? ほかのやつにも教えてあげようっと。

「あーあ、明日何を議題にすればいいんだろう、質問形式にしようかな……?」

「ふふふ!期待しているぜ、山先生っ!頼もしいぜ山先生っ!!」

「……期待に応えてやるぜっ!! 島やんもちょっと真面目に答えるときのテンション、結構いいと思うぜ」

「はっ、ははは、照れるぜ」

 今日はここで皆解散した、島田にはきちんと足首を冷やすよう再度小声で伝え、了解と敬礼の仕草で応えられた。

 俺も帰ろう。


 皆と別れて帰路を歩く。学童時代の景色を見返すことができれば、こうも見える情報が違うものなのだな。

 帰路に就くまでの道筋は記憶に薄いが体が覚えている。歩いていればこっち、さらにこっちと進んでゆく。

 それにしても、明日の講義? もそうだが自分の体の軟弱さと体力の無さも問題だ。

 未来であれば縦にも横にも伸び伸びしてガタイがよくなっていくのだが、学童時代の俺はこれほどまでに難儀な身体能力だったとは。

 うーん、帰ったらストレッチからまず始めていこう。

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