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小学5年生 1

 悩んでいるうちに学校が終える。昼休み、給食、午後の授業、清掃とひどく懐かしい流れがあったのだが、考えている中、勝手に体が動いて片付けていた。

「山やん? 今日はどうする? 公園で遊ぶ?」

「ん? んんんー、そうだな。遊ぼっか!」

「よっしゃ、じゃあ他のやつにも話しかけてみるよ」

「おっけー、んじゃ四時半くらいに集合ということで!」

 話しかけてきたのは友達である島田 薫という。小学五年生で背丈は俺よりも小さいがそれでも学年の中では中間よりは大きいほうである。ちなみに俺は背が高いほうである。学生時代は後ろから数えたほうが、どころか朝会などで整列して並べば一番後ろだったはずだ。島田は運動も出来て確かサッカー部だったと思うんだが、今日は部活はよかったのだろうか。

「ちょっとまった、島やん、今日はサッカーって休みだっけ?」

 ここまで動きは半自動で行っていたが、速度は緩慢である俺とは違い、現役小学生の島田は慣れた手つきで教科書や道具をランドセルにシュババババと詰め込んでいっている。

「ん? 前も言ったけども、足首の調子がよくないから今は自主的に休んでいるんだぜ」

「あれ? そうだったっけ? 忘れてたよ」

「昨日も同じこと聞いたじゃねえか! 今日の昼前といいどうした! っていつものことか!」

 何を失礼なことをと突っ込んでやろうと思ったが、すでに準備を終えた島田はがはははと笑いながらランドセルを背負い扉へ走っていた。

 小学生らしいなと思うが、

「走ったら危ないぜ!」

 と一応注意しておく。元気のいい小学生だ。

 運動は全く得意ではなかった。が遊ぶのは好きである。運動音痴だったのももちろんあるが、確かこのころは――

 と、内履きと靴下を脱いで足の親指を確かめる。大人のときの骨ばって大きく、巨大ともいえる重量を支える足はやや大きくまだ肌がみずみずしさの残る足に若返っている。

 こういう記憶に無いような自分の若さを確認させられると、これは若返ってしまったのではないかという意見が強まってしまう。実際は本当になんなのだろう。まぁ、きっといつか目が覚めて、これが夢なり幻なりと泡沫と消えるだろう。その覚めるまではありし過去やら記憶やらを適度に堪能しようと思うのだ。

 確認し、靴下を履こうとして、いやいやいや違う違う、確認するものが違う。

 ともう一度靴下を脱ぐ。

 脱いで親指を確認すると親指のまだ柔らかさが残っている爪が先端のほうで食い込むような形で肉を巻き込んでいる。巻き爪である。

 確かこれがあって運動した後親指が腫れるのが嫌で運動するのが億劫になったのも関係していたと思うんだよな。

 巻き爪の対処法を知るまで腫れあがる親指をいかに刺激しないですごすかで難儀していたものだ。

 このころは巻き爪が食い込まないようにとなるべく深く爪を切っていたと思うが、実はそれが逆効果で爪を切った端の部分が伸びてくるにつれて、親指の肉の部分に刺さりそれが原因で親指がより腫れる原因になっていたのだ。

 巻き爪の場合の爪の対処はある程度爪を伸ばすことである。爪を肉に食い込まないほどに伸ばしたらそれを先端を丸くなるように切るのではなく、水平に四角く切るのだ。

 四角くなるように切って端を引っかからないように少し丸く切ってそのまま伸ばす。すると爪が四角くなっているところからまいている部分がまっすぐになろうとする力が働いて巻き爪が補正されていくのである。

 この爪の具合であればしばらくは伸ばさないと駄目かな。

 自分の爪の状態を改めて確認をして、先に出てまだかまだかとぴょんぴょんと跳ねている島田に合流して公園へと向かった。


◆◆


 公園についた俺の島田。いつの間にか複数の同級生と合流して公園内を駆け回っていた。

「うわはははははっ!!」

 元気良くどたどたと走る島田。こいつサッカー部をやっている割に、走るの凄い下手なんだな。

 俺はというと捕まって、とある場所に収められている。所謂ケイドロという遊びだ。人数も集まっていたのでこれを遊ぶのに苦労はしないが、なにぶん運動音痴の俺がいけないのだ。

 小学生の時の俺っ!四十近いおじさんだったときよりも動けないのか!!

 結構ショックである。巻き爪で走り辛いというのもあるのだろうが、そもそも身体がまったく発達していない。周りと比べればはるかに体格は良いのだが全然身体が思うように動かない、もたもたするっ!

(これは最低限の柔軟とトレーニングをしないとな)

 きっと三日坊主になるに違いないと確信を持ちつつも、そう思う。

 それにしても

「ぬはははははっ!!」

 どたどた走る島田はいまだ捕まっていない。走るのは下手でも遅くはない。しかしその進撃は続かず

「ぐはーっ!! 捕まったー!!」

 と、俺を捕まえた同じ鬼に捕まってしまったのだ。

 とぼとぼと連行されて俺と同じ陣地に収容される島田。

「やるなー!島やん! さすがサッカー部だぜっ!! 俺にはとても真似できない逃げっぷりだぜっ」

「ぜぇー、ぜぇー、そ、そうだろう! ぜぇー、頑張って逃げたぜ疲れたぜ!! あと足の裏と足首が痛いぜっ」

 膝に両手を置き肩で呼吸をしながら応える島田。そりゃあそうなるだろう。あんな身体に負担のかかるような走り方では体力の消耗も激しいだろう。

 なによりどたどたと足の裏を吸い付けるように地面を蹴っていては足の裏にも足首にも負担がかかる。

「まぁまぁ、捕まったもの同士ここでおとなしく助けを待とうじゃないか」

「ぜはーっ そ、そうだなぁ。でもしばらくは助けは勘弁してほしいぜ」

 地面に座り後ろに倒れこみそうなところを腕で支えて維持し頭を後ろに大きく倒し、大きな口で酸素を補給している。

「なーなー、島やん? 島やんってずっとその走り方で走ってたっけ?」

「ぜー、ふぅ。そうだぜー! なんで?」

「うん、そうか!なるほど!! ありがとうっ 色々合点がいったよ」

「うん? そう?合点合点!!試して?」

「がってん!」

 わははっ! と二人で笑いあう。島田とは小さいころ意気投合して一番仲のいい友達だった。その仲を再確認できたような気がしてとても嬉しい。

 島田は中学生のころから少しずつ肉付きがよくなって比例するようにアニメ系の趣味にどっぷりはまるようになっていったはずだ。もちろん俺もアニメや漫画をよく読んでいたのでそれらについて考察や話をしていた。

 懐かしい!と思い出に浸りたいところだが今はやることがある。

「島やん、ちょっと足首触ってもいい?」

「え? 乳首? やめてっ! そういうのはもっと人の居ないところでっ!あぁ、だめよあたしには飢えた夫と子供達がいるの」

「くくく、安心しなよ、今は回りに誰もいないぜっ! それに奥さ……ってちゃうがな、足首だから、いい?!」

「おう、いーよー」

 島田と話すと必ずといって良いほどちょっとした小芝居が入ってしまう。懐かしい。懐かしいのはいいのだがちょっとおっさんぽい返しをしてしまうところだった。危ない危ない。小学生の美しい記憶を汚してしまうところだった。

 島田はこちらに向きなおしてズボンのすそを軽くめくってこちらに足を出してきた。

「はいっ」

(うわっ、くさっ!!)

 とか言ってやりたいがこれ以上やってしまうと長くなってしまう。落ち着くんだおれのふざける衝動よ。

 島田の足首を軽く覆い把持して靴も脱がす。靴下になった足を把持しもう片手で足首を持ち、足首の可動を確認する。

 硬い。

 足首の動きであればもっと可動が出る。内反、外反、底屈、背屈、回旋運動。足首を横に斜めに回してみたりとしてみたところ可動が全然出ていない。

 動かしたときの制限がかかっているときにやや痛みを訴えているが、捻挫をしているというほどの強い痛みではないと思う。

 よくまぁこれほどカチカチに固まった足首であれほど走り回れるものだと思う。

 さて、どうしたものか。

「島やん、今から足首動かすけども力入れちゃ駄目だぞ」

「ん? んん、わかった」

 全力で走りきって体力的に疲れて落ち着いているのか、それとも俺の少しまじめなトーンに合わせてくれたのか、もしかしたら何かふざけてくるのかもしれないと思って覚悟していたが意外にも静かに受けてくれるらしい。

 左手で足首を把持して、右手でかかとから足の甲に手が届くように把持。子供ながら自分の体格の大きさとそれに比例して大きな手が今はありがたい。難なく自分の思い通りの部分に手が届く。

 その状態のまま足首の関節をほんの少しの力で牽引し、その力を維持したまま関節に回旋運動をゆっくり加える。右回旋、左回旋、3回ほどゆっくり行い、それを両足に行って終了する。

「よし、終わりっ!! ちょっと靴を履いて歩いたりしてみてくれ」

「んん? わかった!! 何かされているとき山やん、ちょっとイケメンに見えたぜ!!ダンディズムを感じたぜ!!」

「そんなー!照れるぜー! んで調子はどう? もしかしたら足首が少し変わったと思うんだけど」

 靴を履きなおし収容陣地内のスペースでぐるぐる歩く島田。

「ん?」

 何かを感じたのだろうか? 一瞬止まって足元を見たと思ったらまた動き出し、

「うおあ!? すげーーー!!」

 といって、収容スペースから一人勝手に脱獄して走り逃げ回る皆へと向かっていった。

「みんなー!聞いてくれー!すげーよ!まじすげーよ!! もう、すげーんだよ!だから聞いてくれー!」

 語彙力が凄い島田の叫びと、勝手に脱獄した島田に対しての非難が混じりつつも島田の元気な声に何何何?と集まる皆。

「あぁ、ちょっと待って……確認はいいけどもいきなり走り回るのはちょっと……」

 確認してもらったあと、いろいろと説明ともう少し話を聞きつつ注意とその他いろいろをしようと思っていた矢先全力で走り去ってしまった友人の後姿と、何を話しているのか身振り手振りでオーバーに身体を使って説明している島やんの姿を見ながら一つため息をついた。

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