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出勤の帰り道

「お疲れ様でーす」

 今日もリラクゼーションの仕事を終え、帰り道を歩いていく。リラクゼーションといっても身体を揉み揉みするようなお仕事だ。

 この業界に入り10年近く、結構な時間と経験を得て中堅といわれても遜色ないくらいになっただろう。

 脱サラして入ったこの業界だったが中々に自分には合っていたのだと思う。何でも一から勉強するのは辛いと良く言うものだったが、いざはじめてみれば今までつまらなくなんとなくで覚えていた業務などと違って、どれほど調べても勉強しても飽きない。私に合っていたのだろう。

 

「うーん、疲れた疲れた、帰ったらすごしストレッチでもして腰でも労わるかー、めんどくさいなっ!」

 人の施術をするのは楽しく思うが、自分自身のケアについてはどうにもやる気がでない。望めるのであれば、自分も施術を受けたい。

 仕事の疲労を背中と腰に感じながら夜遅くなった道を歩く。

 繁華街から少し離れた職場にあるため、帰り道はその繁華街の中を突っ切っていき駅へと向かう。

 店を出てからは多少静かな道であったが、今では光が溢れ人も多くなり、週末にもなれば飲み会であろう塊になるような集団が円陣でも組んでいるのかと思うように何かを話している。

 その道中、同じ職種の店の看板があったり店の窓があったりすれば意識せずとも視線が向く。

 60分2980円!  オイルコース60分3980円!

 大丈夫だ、健全なお店である。入ったことは無いが、健全なお店だ!普通にどこにでもあるマッサージのお店だっ!

 自分も同種の仕事をしているせいか、なぜかこういう店に視点がいってしまうのだ。ここは繁盛しているのだろうか? 何か変わったことをしていたりしないだろうか?などなど。

 その店に視点を当てながら歩いていくと、隣のお店が布地の少ないお姉さんがとても優しい接客をしてくれるお酒のお高いお店があり、ちょどそこから布地の少ないお姉さんが階段から登ってくるのが見えた。

 ヒールを履いた姿勢はとてもよく、細いのによく肉付きはつくべきところにはついており、特に胸は北半球が大きく飛び出ている。すらりとした足は健康的な色をしておりとても官能的だ。そんな肢体を強調するように布地の薄くぴっちりとした服装がそういう職業であることを象徴している。

 おやおやまぁまぁ!! 凄いな、と思いつつもいくら登ってきて、直ぐに店に入るのだろうと思われるのだが、それでもすこぶる寒そうである。

 季節は11月、もう暦的には冬に入ったといってもいいだろう、それを証明するように外は寒い。

 あれほどの肢体だ、維持するためにかなり鍛えたりしているのだろう。足、でん部、腰、腹筋、胸筋、それこそ全体的に鍛えつつ食事にも気を使っているか。であれば、そういう人に多いのが腰の痛み、か。あれは逆に腹筋を鍛えすぎたためによるものだからなあ、昔、そういう系の方が来たときにも腰の痛みで悩んでいたが、原因その腹筋を鍛え過ぎっていうのだったな。

 なんて思っていると、ちょうど登ってきたお姉さんと目があってしまった。

 軽く会釈して帰路へ。

 なんとなく熱が入ってしまったようだ。

 歩行者歩行者の身体の一部を見る。決していやらしい目で見ているわけではない、決してだっ!

 たとえば重そうなサイドバックを右肩に下げた人を見れば、右肩への負担から僧坊筋の上部片側への負担や肩甲骨内縁が張っているのだろうと想像したり、歩いている人の足先がかなり外側、蟹股気味で歩いている人間がいれば膝への負担や、内腿の筋バランス、歩き方ゆえの腰への負担があるのではないかと考えてみる。

 これは、業界人あるあるの考えかだな。

 まぁ、実際に本人に確認したわけでもないので合っているかそうでないかは分からないし、実際聞いてみれば全く検討違いな場合もある。

 が、こういう見て分かる範囲で判断できるものも重要になってくる。

 さてさて、今日はそれを意識して帰って見ようか。

 と思っていると、後ろから悲鳴と大小様々な衝突音?破壊音のような音が迫ってくる。

 やばいと思った。

 こんな日常の中、そんな変なことはそうそう起きることはない、実際に起きたとしてもそれほど大したことにはならないだろう。

 そういう考えで今も今までも生きてはいるが、それでもとっさのことになると意外と意識が変わるものである。何故かって? そういう妄想が大好きだからだ。

 そんなことを思いながら小さな動作で後ろを向けば、車が迫ってきていた。

 中々大きな車だ、どういう状況だ?

 このまま立ち止まっていたら、派手にぶつかり吹き飛ばされるだろう、ゆえに横に動くのだ。

 ………!!

 頭ではそう思っていた。車が来るまでの時間は余裕が無かったが、思ってから行動するには十分である。

 しかし、頭では、脳ではそう行動しろと命令していても、身体が追いつかない。

 上半身はどう動かせばとあたふたし、下半身にいたってはとりもちにかかったように動かない。

 あとは、

 ドンッ    と派手に吹き飛ばされるしかなかった。





 ふぅ、普通ならここで死んでもおかしくなかっただろう。

 俺はきちんと生きている。いや、きちんとというか結構ぎりぎりだったと思う。

 今は病院である、道中救急車で意識確認のためだと思われるが名前を呼ばれ気がついた、が、直ぐに意識を失い、次起きたときは病院のベッドの上で起きた。なぜ起きれたのかと思えば強烈な吐き気に起こされたのだ。

「んっ!!」

 直ぐベッドの横に備えていた看護師の人が用意されていたかのようにソラマメの形の盆、膿盆で即座に吐しゃ物を受け止めてくれる。

 いつもであれば嘔吐など思い切り気分の悪いものであるが、今回はそれほどでもない。なんというか自然に嘔吐している、感じである。

 奇妙な感覚だが、それ以上に膿盆に撒き散らされているものに驚く。

 大量の血液である。

 出血?内臓を痛めた?衝撃、全身打撲、まさか内臓破裂? まではいってない、と思われる。出血量的に……、いや、破裂してないと思うが、全身中身含めて痛いが、そこまでなっていないと思う。破裂していればそれこそ身体に器具だらけになっているはず、それこそ嘔吐するために少し身体を横にすらできないのではないかと。



 この日、多分当日か翌日だろうがそこから3日経っても血下呂が止まらない。

 内臓の出血なのだろうが、なぜだ、傷ついているのは分かるのだが、内蔵の代謝は他の部位よりも高い、ゆえに傷の治りも早いはず。

 3日も出血が続いているともなれば、やはり破裂でもしているのか?

 ……考えたくは無いが、点滴の薬剤が身体に合わないものでの薬害か? まさかとは思うが……


 さらに2日がたちほぼ一週間だと思うが、嘔吐は止まらない。

 医者もおかしいと流石に思ったのだろう、何か質問をしてきたのだが頭が回らない。2日前くらいであれば、自分がアレルギー体質であることを伝えられたのかもしれないが、今のような、ぼんやりと自分の混濁したさまを遠くから見ているような意識では何も応えられない。

 何か検査をしたり、点滴の溶液を変えたりしているのが見える。

 だが、多分もう遅い。

 遠くで見ている自分は自分がもう死にそうだということ、今に死にそうなのだと分かる。

 走馬灯でも見ているのだろうか、これが現実のものなのか過去のものなのかが曖昧である。

 走馬灯であればもっと過去から始まるのではないかと思う。幼稚園でも小学生でも中学でも、そんな小さなころの記憶から思い出したいものであるのだろうか。

 遠く遠くから、ハウリングするような声が聞こえ、一定の甲高い機械音が鳴っている。よく分からないが誰かが死んでしまったのだろう。

 遠くで見えていたと思う景色も見えなくなってしまった。

 真っ暗だ。




 ――?

 ?

 ――くん?

 ん? 名前? 呼ばれた?

「山田 日和くん?」

「はいっ」

 返事をあげたとき、どこかの教室で教師らしき人物がこちらを見ている。深緑の黒板に何か書かれているようだが、数字が見えるので数学だろうか、数学は嫌いだったな。といっても勉強のほぼ全てが嫌いだったのだが。

 右の太ももをつねる。

「山田くん、これが分かりますか?」

「分かりません」

 とりあえず素直に応える。ぜんぜん分からない。

 どっ と教室内に笑いが起きる。笑い声がかなり若々しい。

「分からないのなら、きちんと授業を聞きなさい」

「分かりました」

 自然に返答できた。何だ?ちょっと状況が飲み込めない、とりあえず何がどうで今がいつなのだ?

 黒板があり教師が何か文字を書いて、教科書らしきものを見ながら話をしている。周りの学童らしき生徒たちはその授業を聞き、筆記に起こす音がかりかりとしている。

 服装が自由で、顔や背丈がかなり幼い、これは小学生だろうか。教師も若い。ジャージの上下に適当に後ろに結んだ髪、化粧のかけらも見えないすっぴん顔だが、20代くらいであろう若さがある。すっぴんだがしっかりとした顔立ちである。同年代などから結構人気が出そうな感じであるが、ジャージの上下と女っ気の感じさせないそのさまは教師らしくて好感を持てる。

 手の甲をつねってみる。

 時計をみればもう直ぐで12時になる。ということは、どういうことなのだ?自然と授業の終わりが近いことが分かったのだが、確か病院にいたと思う。なんとなく走馬灯を見ているような気がするということも思い出す。

 が、走馬灯にしては一つの場面に対しての見える時間が長い。というか現実感がありすぎる。

 薬の影響だろうか、まさか死んだのではなく生きていて昏睡という奇妙な夢を見ているのかもしれない。

 よく夢の中で夢だと気づく、明晰夢を見ていたからこれもそうかもしれない。が、そうでないと右の頬をつねったところで確信する。

 先ほどから色々な箇所をつねって見たがどれもリアルで痛い。筋力確認もかねて今出せる全力でつねってみたので痛みも相応である、非力ではあったが。

 ふぅ……、長い夢になるのだろうか、記憶を引き返しているのかなんなのか。

 薬か事故の影響かなんなのか、どうなっているのか。

 どんどんと現実と夢の感覚が良く分からなくなってきたような気がする。似たような感覚を最近受けたような気がするがいつだっただろうか。

 ああ、なんかだんだん頭が痛くなってきた。

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