99話・妬いてないです
「おい、おい。余計なことを考えてないよな?」
「ヴァン」
「もしものことだが、ブリギットを妻に迎えたとしても、おまえに惹かれる気持ちは変わらなかったと思うぞ。彼女を王妃に迎えていたら、余は彼女を顧みることのない夫となっていた自信はある」
「変な自信持たないで」
「だからこれでいいんだ。可哀相な王妃を作る未来は避けられた。余は隣にいる女はおまえがいい」
「……ブリギットの賢明な判断に感謝しかないわね」
「自分で言っておいて何だが、あの頃は彼女の気持ちも考えもせずにそれが最善だと思い込んでいた。馬鹿だった」
おまえといる未来が訪れなかったかも知れないのに。と、イヴァンは苦笑した。
「責任取ると言ったぐらいだから、当時はそれなりに彼女を気に入っていたんじゃないの?」
「良く分かったな?」
私の指摘にイヴァンは感心したように言う。
「あの頃は周囲に他に女性がいなかったから、彼女が甲斐甲斐しく皆の世話をしているのを見て、天使のように思えたんだ。気高く思えたな」
それを聞いて面白くなかった。イヴァンはソニアを好きだったはずじゃないの?
「ふ~ん。ソニアに惚れていたんじゃないの?」
「ソニアは初恋で憧れだったから、手の届かない人だと思っていた。近くにいたブリギットに少々興味を抱いた。済まない」
「別に謝らなくてもいいわよ。私は、今はレナータでソニアじゃないから」
「でも、おまえは姉上の記憶も持っている。他の女に気を惹かれた余の話を聞いて面白くないのだろう?」
イヴァンが彼女に興味を持ったのは、私がソニアだった頃の話だ。でも、その頃のソニアはイヴァンが自分に好意を抱いていた事は知らないし、イヴァンを弟という目でしか見てなかったから、彼がブリギットと懇意にしていたとしても何か言える立場ではない。
浮気には当たらないと言ったつもりなのに、謝られてしまった。
「悪かった。もう終わったことだ。許してくれるか?」
「別に許すも何も、私が怒ることではないわよ」
「怒ってないのか?」
「なぜ怒る必要があるの?」
「おまえはブリギットが同乗してから機嫌が悪くなっていた」
イヴァンの指摘によく見ているものだと思う。そこまで感じているなら私の不機嫌な理由に思い当たってもいいと思うのに。
イヴァンの責めるような目にため息が出た。
「二人の関係を知らなかったから。あなたを彼女がヴァンと呼んでいたのが気に食わなかったの」
「そうか。可愛いヤキモチだな」
「妬いてないわよ」
私の不機嫌な理由を知り、イヴァンは嬉しそうに笑った。
「可愛いなぁ。レナは」
「いやだ。ヴァン。何?」
いきなり膝の上に乗せられようとして戸惑った。この狭い馬車の中で何をしようとしているの?
「あいつらがいなかったならこうして愛でたいほど可愛い顔をしていたからな」
「ヴァンっ」
「ああ。可愛くて仕方ない。余の妻は最高だ」
「ヴァンってば」
膝から降りようとしたのに、背後から抱きしめられて身動き取れなかった。少しの間、イヴァンにキスで責められ、馬車から降りる頃には息も絶え絶えになっていた。




