92話・夢をみた
「レナ。フラベルジュ旅行は楽しめたか? 満足したか? ギヨムへの仕返しが出来て清々したか?」
「とても満足したわ。あの男に言われぱなしは心残りだったの。仕返しの機会を与えてくれてありがとう。ヴァン」
イヴァンには私の目的が見抜かれていたらしい。それでも同行を許してくれたのは、ギヨムに対する鬱屈とした思いを彼が感じ取っていたからではないかと思った。
「でもこれはあなたが十五年前に、この国へ視察に来て大盤振る舞いしてくれていたおかげよ。希少価値のある宝石や、高価な毛皮を惜しげもなく王侯らに配ってくれていたおかげで、皆がクロスライトは田舎者で貧乏国だと言う認識を改めることが出来たんだもの」
今回のことはイヴァンの下地があったからこそ出来た復讐劇なのだ。皆がクロスライトという国を知らない中に、あのようにギヨムを非難しても誰も賛同しなかったに違いない。
クロスライトが他国にとって必要価値のある国交が絶えたら困ると思う国だからこそ出来たこと。
ここまでクロスライト国を導いてくれたのはイヴァンだ。
「イヴァン、ありがとう。クロスライト国をここまで他国にも認識させることが出来た。あなたの功績よ。きっと天国でアレクセイも亡きお父さまも喜んでいると思うわ」
「レナ……!」
ふと前世の父や弟らを思い起こし、懐かしむように言えばイヴァンが強く抱きしめてきた。
「どうしたの? ヴァン?」
「レナが今、どこか遠くに行ってしまうような気がした」
「いやね、ヴァン。私はここにいるわ」
湯船から上がっても、イヴァンは私から片時も離れる様子を見せなかった。彼のその行動は、姿の見えない何かに怯えるように、私を何かから奪われないように必死に囲い込んででもいるように見えた。
その晩、摩訶不思議な夢を見た。父王が出てきたのだ。あの時には全く気がついていなかったが、父王はどことなく雰囲気がイヴァンに似ていた。
「息災か?」
「はい。父上」
「領地の件、見事だった。今まで悪かったな。八年前にあのように口火を切って出ていったおまえは、すぐに帰って来るだろうと思っていたのだ。あの頃はここまでおまえがやり遂げるとは思いもしなかった」
「宮殿育ちで外の世界を知らない私でしたものね」
「だが読み違えていたようだ。おまえには王の器がある。しかし……女だ」
「そうですね」
これは私が前世、領地経営で立て直した功績を讃えて宮殿に呼び戻された頃の記憶だ。それを夢に見ているらしい。
父は私を自慢に思いながらも、性別が女であることを憂いていた。




