9話・私の本当の両親は?
陛下の容赦ない言葉に、殿下は現実を知らされて声もなく泣いた。
「おまえには不憫に思うところもあるが、王太子の称号を剥奪する。宮殿から追放と言いたい所だが、平民となって暮らすのも温室育ちのおまえには無理だろう。おまえは王妃に似て顔だけは良いから、あのような教養もない女に群がられても困るし、無駄に種を蒔かれても困る。ギリア離宮へ行け、そこで一生大人しくしていろ。キルサン、連れて行け」
陛下からギリア離宮に送ると言われ、殿下は深く落胆した。なぜならそこは彼の亡き母が亡くなるまで幽閉されていた所だからだ。同じ場所で彼も同じ道をたどる事になる。
陛下は、ヨアキムが息子だからと手加減する事はなかった。それは他人である私から見ても血も涙もない所業にも感じられた。
陛下が将軍に命じる。将軍に促されて殿下は項垂れるようにして退出して行った。情欲に溺れてしまった哀れな若者の末路だった。部屋の中は陛下と二人きりとなる。
浮かない顔をしていたら、陛下が私の好きな飴でコーティングされたナッツ菓子を機嫌でも取るように勧めてきた。
「どうした? レナ。食べるか?」
それまでヨアキムに向けていた険のある声とは違った優しい声音。彼と私に対する態度があからさま過ぎる。
この人は、息子よりも何の血の繋がりもない私を構うなんてどういうつもりなんだろう?
いつの日からか陛下には二人きりでいると、こうして祖父母や親しい者にしか許していない愛称で呼ばれるようになっていた。
「私の立場はどうなるのですか? もう王太子妃教育などしなくても良いですよね?」
差し出された菓子を手の中で弄びながら聞けば、陛下は横目で言ってきた。
「ああ。おまえは優秀だからな。今後のことについては少し待て」
「まさか婚約破棄された私にもう別の相手を宛がおうという訳ではないでしょうね? 陛下」
「いやあ、さすがにそれはおまえに気の毒だ。しばし、休め」
「はい。遠慮なく。ところで陛下」
「何だ?」
「あの……、私の本当の両親ってどなたですか?」
私は引っかかりを覚えていた。このイヴァン陛下がただその場で「気に入ったから」の一言で私を王太子妃に組み込もうとするわけがないことぐらい。
自分が王位に就くのを有利にする為に、懇意にもしていなかった王弟の息子と手を組み、その娘を嫁にもらうぐらいの男なのだ。
私は自分がバラムの血を引いてないことぐらい気がついていた。ただ、本当の親となると誰を指すのか皆目見当が付かなかった。前世の記憶を探っても、私の年頃の娘を持ちそうな相手に心当たりがなかったのもある。
「知りたいのか?」
「はい」
「知ったなら逃してやれないぞ」
「知らなくても逃してくれなかったくせに」
「まあ、そう言うな。そのうち話してやる」
陛下は話してくれる気にならないようだ。それでも少しは情報が欲しかった。部屋の中は陛下と二人きりとなる。
「私は祖父の本当の孫娘ではないですよね?」
「おまえはあいつらの孫娘だぞ。息子が娶った嫁が産んだ子だからな」
それはおかしいような気がする。そうなると私の現世の母親が王家の血を引く者の可能性が出てくる。前世で父王の血を引く娘はソニア王女だった私だけのはず。他に娘がいるなんて聞いたこともない。
前世の私の記憶では、バラムの息子は独身で結婚していなかったように思う。きっと結婚したのは私が死んだ後の話。




