88話・斜陽の国が取る道は?
「ソニア殿下と言えば摂政姫として名高い御方よね? その御方を醜女扱いするなんて」
「フランベルジュ国王は、クロスライトの王女にそのような事を言うなんて思い上がっているんじゃないか?」
「そう言えば最近、クロスライト国の王女を名乗る偽者姫が出て、その姫に王孫王子が誑かされていたと聞くが、その中に陛下もいたらしいぞ」
「嫌だわ。王孫王子と同じ女性を取り合っていたと言うの?」
「もともと女性の噂が絶えない御方だ。あり得そうな話だ」
「不潔ですわ」
周囲がざわめき出す。皆に白い目を向けられて、ようやく事の重大さに気がついたようなギヨムは顔色を変えた。
「あの頃、我は世の中を良く知らなかった」
「そうですね。こちらの国は政治なんて臣下任せのようですから。王は何も知らずに遊興に耽っておいでになる。まるで美しいお飾りのようですわね。そのうち優秀な臣下の手によって、他の置物に変わるのでしょうけど」
「それではまるで我はお飾りの王と言われているようではないか」
私の嫌みに気がついたらしいギヨムは、その場で地団駄踏む。その彼の後ろから落ち着きのある中年男性が進み出た。
「クロスライト国王陛下、レナータ妃殿下。我が王の非礼は幾らでもお詫び申し上げます。どうかその辺りで苛立ちを治めては頂けないでしょうか?」
「あなたは?」
「私はこの国の宰相を務めております、レーベと申します」
そう言いながら彼が顎をしゃくると、その意味を理解した近衛兵が陛下の両脇に並んだ。
「ではレーベ。その見苦しいおまえのところの王を速やかに回収しろ。不愉快だ」
「はっ」
イヴァンの言葉に深く頭を下げて、近衛兵二人に自国の王の両腕を掴ませて連れ去ろうとする。それに対し、ギヨムは抵抗したがみっともなかった。
「止せ。レーベ。おまえは我の臣下だろうが、なぜクロスライト王の言うことを聞く?」
「あなたさまはあまりに大恩あるクロスライト国王陛下に対し、失礼で無礼極まりないからですよ。このような御方が我が国の陛下だとは嘆かわしい。早くお部屋にお連れしろ。今夜から陛下は静養に入られる」
嫌だ、嫌だ。離せとわめく陛下を引きずるようにして近衛兵は退散した。
「皆さま失礼致しました。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」
皆の注目を集める形となったレーベはそういってその場を終結し、退場しようとした。そのレーベにイヴァンが声をかけた。
「宰相。ようやく腹を括ったようだな?」
「はい。もう王孫殿下も賢女と呼ばれる王子妃を娶られましたので」
「おまえのことだからもう少し早く動くと思っていたのに、時間が掛かりすぎではないか?」
「時期を待っておりました」
「今後は忙しくなりそうだな。何か手伝うことでもあるか?」
「この国は急速に衰弱していくことになるでしょう。その時はクロスライト国の門前に繋がれているように思われます」
今は助けを必要としないが、クロスライト国の助けを必要とした時には、すでに属国になっているでしょうと宰相は一礼し去って行った。




