84話・能力と外見を同じように語るな
若い私の口からソニアの名前が出て、私がソニアの姪だと言うことを、ギヨムは今更のように思い出したようだ。
「余の妻はなかなか手強いでしょう?」
「イヴァン」
そこへ両手にグラスを持ったイヴァンがやって来た。彼は「待たせたな」と、言ってグラスを手渡してきた。
「そなたの好きな果実酒を用意してもらっていたら戻ってくるのに時間がかかった。悪い男に引っかからなかったか?」
「粉はかけられましたわ。そこにいるフランベルジュの王に」
「ギヨム陛下が? 物好きな」
イヴァンがちらりとギヨムを見れば、彼は慌てて言った。
「王妃が一人で寂しそうにしていたので、声をかけただけで、そこに特別な意味はない」
「おまえの身に何かあったら困る。何事もなくて良かった」
特にフランベルジュの王との間に噂が立ったなら、おまえが不評を買うとイヴァンは心配した。
「大丈夫でしょう。フランベルジュの王は、私のように堅苦しく賢しい女はソニア王女を見ているようでお嫌いのようですわ」
「あなたはあのような女とは違う」
「あのような女とは?」
「決まっている。ソニア王女だ。あなたはまだ生まれてなかったから分からないだろうが、あの女は見た目通りに心根も醜い女だった」
この男は私の何を知っていると言うんだ? ギヨムとはお見合いで一回しか会っていない。それなのに人の事を分かったように言うのは止めて欲しかった。
「王女ソニアは余の敬愛する義姉上です。侮辱は止してもらおう」
イヴァンの発言に意外なことを聞いたとギヨムは目を丸くした。
「あのような女を? 陛下は姉の横暴を見かねて挙兵されたのではないのか? そのように聞いていたが?」
「ソニア殿下が横暴?」
ギヨムはイヴァンが王位についた経緯を物知り顔で言った。イヴァン本人が望んだ事ではないが、彼の母や将軍が挙兵して、私達を宮殿から追い出したのは有名な話だ。それについて言われるのは仕方ないにしても、他国にはソニアが害のように思われていたのかと思うと複雑な気分となった。
「女だてらに摂政などと持ち上げられて、人気取りの為に国庫を国民にばらまき空にした。それというのも女として自分に自信がなかったせいだな。醜女だったし当然だな」
「政務を執る事と、見た目は関係ないのでは? 執務に必要なのは能力ですわ」
能力と外見を同じように語るな。おまえは顔だけの男だろうがと、言いたくなる。国が傾きつつあるのに、その現実から目を背けて、いつまでも夢の中に逃げ込んでいるだけの男が偉そうに語るな。
と、反論したくなった。
そこへ明るい声がかけられた。
「あら。そこにいらっしゃるのはレナさまでは?」
王太子妃だ。マリーは一人の年配の男性を連れていた。彼女と同じ銀髪に灰色の瞳をしていた。顔に皺があっても美丈夫だ。彼女と血縁関係にある方のように思われた。




