82話・今生で初めてのお友達が出来ました
「殿下に期待しても無駄よ。恐らく殿下は物珍しさと、背徳の関係にスリルを感じてあなたと関係を結んだみたいだけど、陛下や殿下にとって享楽とは趣味みたいなものだから。あなたは体のいい性欲解消の相手なだけ。そこに特別なものなど望まない方がいいわ。あなたの代わりなど幾らでもいるんだから。そのことはあなたが一番、分かっているんじゃないの?」
だから陛下に捨てられても、王太子の保護を求めるべく関係を結んだのよね? と、言えば黙った。
このような女は、イヴァンの産みの母で経験済みだ。この女はあそこまで上り詰めることは出来なかったようだけど。
「でも手を出そうとした相手が悪かったね。ここであなたは首を落とされることになるのだから。大人しく自粛していればわざわざ寿命を縮めることはなかったのにね」
「ひぃいい」
剣を持ってない方の手で首をちょん切る仕草をしたら、マルタは目を剥いて気絶した。
「あら、私のイヴァンを取ろうとしたくらいだから、どのような悪女かと思ったけど、大したことはないわね。この人を部屋まで運んであげて」
「はっ」
護衛の者に剣を返して言えば、それを見ていたマリーが呟いた。
「レナさまを怒らせてはいけないと学びましたわ」
「そんなに怖かったですか?」
「はい。かっこいいくらい怖かったです」
意味が分からなかったけど、マリーがでもスッキリしました。と、笑顔を向けてくれた。
「あの人には手を焼いていたのです。ルシア以上に聞き分けが悪くて。亡き先代王弟の庶子と言うこともあって無駄にプライドも高かったですしね。でもこれで大人しくなることでしょう。ありがとうございます。レナさま」
「お礼を言われるようなことはしていませんわ。都合悪くなると、人を貶しにかかるようなああいった人は私、大嫌いですの」
「レナさまは正直ですのね。私、気に入りましたわ。お友達になっていただけないかしら?」
「私がお友達ですか?」
前世では同性には一線引かれていた私である。このように好意を抱かれることも少なく、友達になろうなんて言ってくれる人はいなかった。
現世でも自分と同等な関係を望む相手などいない。ヨアキムの婚約者となった時からご令嬢方は私が自分達の上に立つ者として私に失礼がないように接して来たので、このように好意を露わにして言ってくれるマリーの気持ちが嬉しかった。
「あの、マリーさま。私はまだ十六歳でマリーさまとはかなり年も離れていますわ。それでも宜しいのですか?」
「年齢なんて気にならないわ。レナさまと話しているとなぜかしら? 同世代と話しているような気になってしまうのよね」
それはきっと私が前世の記憶持ちで、ソニアの精神も持っているから、精神が老けているせいだよね。マリーさまには言えないけど。
「私と友達なんて嫌かしら? 私はオバサンだしね」
「とんでもない。マリーさまはお姉さまという感じで、お友達になっていただけたら光栄です」
「こちらこそ光栄だわ。宜しくね。レナさま」
「はい。マリーさま」
この日をきっかけに私はマリーさまと仲良くなった。今生で生まれて初めての友達。イヴァンに報告すると「良かったな」と、頭を撫でられた。




