81話・優しいって罪よね
マリーがため息をつきつつ言った。
「あなたにも話したと思うのだけど? この度、詐欺師タマーラを国元に連れ帰り処分して頂いたおかげで、無事我が国の王子が許嫁との仲を取り持ち婚姻する事が出来ました。そのお礼としてクロスライト国王夫妻をお招きしたと」
「その事ですが、何度も申し上げましたけど誤解ですわ。タマーラさまは王子妃に相応しい御方でした。あの目のきつい公爵令嬢なんかよりも王子さまに良くお似合いでしたわ。それを二人の仲をわざわざ引き裂くなんて非道です。タマーラさまは王子さまを深く愛していたのに」
マルタが私に縋るような目を向けてきた。吐き気がした。我慢ならなかった。
「この者を取り押さえなさい」
静かに命じると、私の護衛兵が動いた。マルタは自分が害されるとは思っていなかったようで非難するように言う。
「これは何の真似です? わたくしは寵妃ですよ」
「お黙りなさい。あなたの言葉は不快です。イヴァンが陛下の許しをもらう前にこの私の手でその首、即刻落として差し上げましょう」
護衛兵二人にマルタの両脇を押さえつけさせ、その場に膝をつかせた。マルタは腹を立てていた。
「お離しなさい。私を誰だと思っているのです?」
「あなたは私をどこまで侮辱する気かしら? タマーラが王女? あなたの目はどこまで淀んでいるの? わたくしが本物のアレクセイ殿下の娘よ。あなた、剣をお貸しなさい」
抗うマルタに真実を突きつけると唖然とした顔になり反抗的な態度が消えた。護衛兵から剣を受け取り鞘付きのまま、マルタの喉元に突きつけると、マリーや彼女は顔色を変えた。
「レナさま……!」
「私も甘く見られたものね。たかが一国の寵妃に、どこの馬の骨とも分からないと言われてしまうとは。その上、陛下との間に娘をけしかけられて許せるようなお人好しとでも?」
「お。お許しを……。もう二度とそのような事は致しません」
「どうかしら? 口では何とでも言える。あなたは陛下の寵妃だから最後はあの男に庇ってもらえると思ってでもいたのでしょう?」
「……」
「残念だけどもうあの男はあなたに未練などないみたいよ。今回の事で率先して修道院入りを決めたみたいだから」
くすりと笑って鞘付きの剣で彼女の顎を掬ってみせると、彼女は呆然としながら呟いた。
「そんなはずない。陛下はお優しいもの」
「優しいって罪よね。関心ない女にも愛想良く出来る人なのよ。ギヨム陛下って。あと、お馬鹿さんのあなたに忠告しておくわ。浮気好きな男性だからって、自分の物にした女が他の男の種を宿して平気でいるわけないじゃない」
こうなったのは自業自得よ。と、顔を寄せてマルタに言えば彼女は震え出した。




