79話・阿婆擦れ襲来
「あの日、王太子殿下が直接、迎えに来たのは──娘を心配して?」
嫌な予感が頭に浮かんだ。もしも、そうなら雷の鳴った日に王太子が駆け込んできた理由が分かるような気もする。でもそれはない。王太子妃が哀れだ。
「レナータさまは聡明だと伺っております。違和感に気がつかれていましたのね。あの子は夫と寵妃との間に生まれた子ですの」
「そんな……! その事を陛下は?」
「ご存じです。でも、王には王妃さまを散々、泣かせてきたという負い目があるので殿下と寵妃の仲を非難出来ないのですわ」
「未だ、続いていると言うことですか?」
「この国の男性達は、あのような男性に媚びて生き残ることしか考えてないような女性を突き放せないようです」
王太子妃が悲しそうに言った。
「私とは政略結婚ですし、二人の関係に波風立てれば国交に影響が出ますわ」
「許せないですわ。王太子妃さまは間違いを正しただけではないですか? あなたは間違っていませんわ」
私は黙っていられなくなった。何てことだろう。ここの王家の男達は屑ばかりか。
「ありがとう。レナータさま」
「私の事はレナとお呼び下さい。王太子妃殿下」
「レナさま。では私の事はマリーと」
「はい。マリーさま。腹が立ちますわね。殿下も父親同様、女性を見る目がなさそうですわ」
「フッフッフ。レナさまったらそのようにムキになって」
「だって本当なら、娘の養育はその母親がすべきことでしょう? それを養育係や、マリーさまに丸投げってどういうことですの?」
母親失格だろう。大人しくまだあの屑男の寵妃として過ごしていれば良かったものを。どうして息子にまで手を出した? 阿婆擦れじゃないの。
「あー、むかつきますわね」
マリーの心情を思い、ルシア王女の母親の顔を一目見てみたいなどと思っていた時だった。
「妃殿下。こちらで昼餐でしたの? わたくしも誘って頂きたかったですわ」
いきなり無粋な声がしたと思ったら、一人の女性が入り込んできた。金髪に緑色の瞳をした儚げの容姿をした美しい女性だった。着ているドレスは目を惹くような黄色で黒いリボンで所々結ばれていた。おまえはミツバチか。
この空気を読まない登場の仕方から、絶対この女性はルシアの母親だろうと直感した。私は彼女に対して良い感情を持っていない。心の声が毒舌となっても仕方ないと思う。
「寵妃さま。そちらはいけません。ただ今、妃殿下はお客様とお会いになっておられます」
「分かっているわ。クロスライト国の王妃さまでしょう? わたくしもご挨拶させて頂きたいわ」
タラーリが必死に呼び止めて連れ出そうとする。養育係も大変だ。このような人種を真面目に相手にすることなどないが、私はわざと声をかけた。
「マリーさま。この御方はどなた?」
「レナさま。こちらがルシア王女の母で、陛下の寵妃のマルタです」
「宜しくお願い致します。レナさま」
やはり彼女はルシアの母親だった。寵妃と言うだけあって男性が好むような豊満な体つきをしていた。
図々しくも私の隣の席に座ろうとしている。




