78話・あの子は陛下のお子ではないのです
三日後。私はフランベルジュ国の王太子妃と二人きりの昼餐を取っていた。王太子妃にお誘いを受けたのだ。
イヴァンも陛下との会合に赴いていた。あの後、陛下や王太子殿下からお詫び状と沢山の謝罪の品を頂いた。フランベルジュ国としては王孫王子が邪な道にはしりそうだったのを、クロスライト国が元凶であるタマーラを連れ帰り処分したことで、国の平和が保たれたと考えていた。
そのクロスライト国王夫妻をお礼の意味で招いたのに、空気を読めない王女が一人暴走してしまった事で、国家の大事だと宮殿内は上を下への大騒ぎとなってしまったらしい。
その問題王女はただ今自室監禁中。もしもまた私達に接触すれば問答無用で、母娘ともに戒律の厳しい修道院に速攻送られると王太子妃は語った。
「最初からあの子は修道院送りにしておけば良かったのですわ」
物騒な事を言う王太子妃を前にして私は苦笑した。王太子妃は三十代と聞いていたけど綺麗な人だった。銀髪に灰色の瞳をしていた。美人を怒らせると怖いと感じるぐらい、嫌悪感を露わにしていた。
この御方は亡き王妃殿下の姪に当たる方だそうで、王太子とは従兄妹同士で婚姻したらしい。
「このような事態になり申し訳ございません。本当に失礼致しました。レナータ王妃さま」
「もう謝罪は結構ですから」
人払いされたテラス席での会食で、王太子妃は私に何度も謝罪を繰り返し、そのきっかけとなったルシアを良く思ってないようで、フランベルジュ王家の恥だとまで言ってのけていた。
「ルシア殿下は夫を慕っているのでしょうか?」
慕っているというよりは、母親が何か吹き込んだのだと思われますわと王太子妃は言った。
「六年前にクロスライト国王が訪れた時に、国王が大国の王であり巨万の富を持つと知った事で、どうにかお知り合いになりたいと母親が媚びを売っていました。国王にすげなくされたので今度は娘を焚き付けたようです」
「ルシア王女は、陛下に良く似た綺麗な御方でしたものね。皆さまに可愛がられておいでなのでしょう」
「レナータさまの方が数倍お美しいです。レナータさまとは四歳しか年も変わらないというのに。レナータさまのように落ち着きもなくて恥ずかしいですわ」
私は前世の記憶持ちだし、精神力はその辺の子供より老けていると自覚はあるので苦笑いしか出来なかった。
王太子妃にとって彼女は悩みの種らしい。
「母親に似て男性の気を惹くのが上手いだけですわ。さすがにイヴァン国王の気は惹けなかったようですけど。六年前に母親に唆されたのでしょう。イヴァン国王が立ち去られる時に、大きくなったらクロスライト国王の下にお嫁に行きたいと言いだし、殿下や陛下は子供が言うことだからとその時は笑って聞き流していたのです」
それを律儀にルシアは覚えていたと言うことか。周囲の大人が言って聞かせるべきだったのでは? と、思うと、王太子妃が注意したが聞き入れてもらえなかったのだと言った。
「お恥ずかしいことに私はあの子に嫌われております。今までにもあの子は突拍子もない事をしでかし、その度に王太子妃という立場から、ルシア王女には私から何度か注意する機会がありまして、そのせいで嫌われているのですわ。あの子は注意されるとすぐに泣いて殿下に言いつけるものですから、殿下にも私が悪いと叱られまして、今回の件も離宮に勝手に入り込んだことも、雷が鳴った日の事も殿下では話にならなかったので陛下に報告させて頂きました」
「それは大変でしたわね。でも、いけないのは明らかにルシア王女なのに、幾ら年の離れた兄妹だからといって王太子殿下も甘やかされては本人の為にはならないでしょうに」
王太子妃の苦労を労うと、彼女はポツリと漏らした。
「実はあの子はギヨム陛下の子ではないのです」




