77話・王太子殿下の迎え
「王太子殿下?」
「ルシア。心配した」
この場にいた者達が皆どうしてこの場に王太子殿下が? と、訝る。その反応を肌で感じ取ったのかルシア殿下はそろりと立ち上がって、つかつかと歩み寄ってきた王太子にしがみついた。
「ルシア大丈夫か?」
「はい」
「さあ、帰ろう。ここにいてはいけない。ここはお客様のクロスライト国王夫妻が滞在されている所だ。お邪魔してはいけない」
そう言って王太子がルシアを抱きあげる。陛下のしでかしたせいで、親子ほど年の離れた兄妹は見目も良く似ていた。
「なぜ? ルシアはイヴァン陛下の奥さまになるのでしょう? 今まで勉強をサボってきたのがいけなかった? だからイヴァン様は他に奥さまをもらってしまったの?」
「ルシアっ」
焦ったように王太子が彼女の名を呼ぶ。イヴァンは王太子をねめつけた。
「ほほう。そのような頭の足りない王女が余と婚姻? 初めて聞いたな」
「失礼した。イヴァン陛下。ルシアは何か勘違いしているようで……」
「勘違いじゃないわ。お祖父さまだってお約束してくれたのよ。六年前にイヴァン陛下が訪問された時に、あの御方の妻になりたいって言ったら分かったって言ったわ」
彼女には話を濁される意味が分かってないようだ。思考が幼いのだ。幼い時から周囲に我が儘を言っても何でも叶えられてきたせいで、大人が誤魔化そうとしたのでさえ、分かろうとしない。
「ルシア、それは……!」
王太子は私達と目が合い、「ルシアは興奮しているようだ。今すぐ連れて帰ります」と戸口へ向かう。
その後をルシアの後を駆け込んできたタラーリと近衛兵達が申し訳なさそうな顔をして後を追っていった。
「無礼な奴らだな」
「本当よね。落ち着かないからもう帰りましょうか?」
「そうだな。ここへはおまえとゆっくり休日を過ごそうと思ってきたのに騒がしすぎる」
このままいると厄介な事になりそうですものと思っていたら、翌朝に謝罪文が届けられた。フランベルジュ国側としても、国内の食材のほとんどをクロスライト国からの輸入に頼っている状態だ。
そのクロスライト国王を怒らせたなら大変な事になると言うのはお分かりのようで、朝一番に使者が飛び込んで来た。平伏して頭を床に打ち付けている状態でお詫びされてイヴァンが深いため息を漏らす。
使者は私にも恐る恐る書状を渡して来た。それを横からかっ攫ったイヴァンは、差出人の名前を確認してから私に手渡してきた。
その書状はこの国の王太子妃からの物だった。




