71話・フランベルジュのお国の事情
部屋の中は昨晩泊まった宮殿内の客室よりも豪華さはないものの、調度品は一流の物が置かれているし白色で統一されているので清潔感に溢れていて、昨晩の新郎、新婦に負けないくらいコテコテに金や宝石で飾り立てられた室内よりも、目も心も安らぐ気がして心地よい空間がそこにあった。
「昨晩は落ち着かなかったわ」
「ああ。ごてごての趣味の悪い金だけかければ良いといった感じの部屋で休めた気がしなかったな」
イヴァンも私に同意見だと言う。私はそこまで叩かないけどね。
「そう言えばイヴァン。昨日の挙式だけど各国の王族の方々への挨拶しただけに終わったわね。王孫王子の兄弟の方々にはお会いしなかったような気がするけど?」
普通はお祝いの席にその兄弟達も呼ばれるはずなのに、陛下の他に王太子夫婦と令嬢の縁戚の者しか会わなかったような気がする。
他の親族の方々には途中退場したのもあって挨拶出来てない。失礼に当たらなかったかと聞けばイヴァンが言った。
「王太子夫婦の子と言えばあの挙式を上げた王子のみだからな」
「え?」
「王太子が腹違いの兄弟達を参加させるのを快く思わなくて断ったって話だ。賢明な判断だろう。腹違いの兄弟達を全員招いたら、王孫王子とそう年の変わらない王子、王女が居並ぶことになるからな」
王太子としてはそれがみっともない事に思われたらしい。御年、五十七歳になるご本人は気にしなそうだが。
「王太子殿下は幼い頃から父親が女性に手が早いのを見て育ってきたせいで、嘆く母親の王妃の心情をくみ取り自分は許嫁の王女に誠実であろうと、側妃や妾を持たなかったそうでお子は一人だけだ」
王太子はあの男に似なかったようだ。あのような父親を持って相当苦労してきただろうに、その上、たった一人の息子である王子がタマーラのような女に誑かされて、踏んだり蹴ったりな人だと思う。
でも今日の挙式で王子は聡明な王子妃を迎えたようなので、これで王太子は心底安堵したのではないかと思った。
「私、あの人に嫌われていて良かったわ」
「あの御方は女の見る目がないようだからな」
私の呟きにイヴァンが頷く。あの男に嫌われていて本当に良かった。万が一、あの男と政略結婚していたら、毎日悋気を起こして辛い日々を送りそうだ。そのせいだろうか? 王妃は十年前に崩御されている。
その後、次の王妃を持たずに女に手を出しまくっている王に軽蔑の気持ちしか起こらない。
「よくやるわよね。確か末の王女殿下は十二歳になるのでしょう?」
「ああ。年がいってからの子だから相当、甘やかしていたな。見た目が陛下に良く似ていた」
「相当な美少女のようね。知っているの?」
「六年前にこの国を伺った時に紹介された。その時は六歳だったが甘やかされて育ったらしい。おまえが六歳の時とは違って随分幼い感じで手を焼いた。我が儘が過ぎて呆れた」
「私には前世の記憶もあるから、思考がよその子供とは違って老けて見えるかも。我が儘言われても可愛かったのではないの?」
「いや、厄介なだけだったぞ。余はレナにならどんな我が儘でも受け止める自信があるが、あれは迷惑行為にしかならん。王太子が他の王子らを招かなかったから助かった」
「そうなの。じゃあ、会わなくて良かったわね。でも、一目見たかった気がするわ」
そう言いつつも、あの陛下に外見が似ているという王女が気になった。
「止しておけ。あれは相手にするのも疲れる。父親が父親だからな」




