67話・来たばかりだけど失礼します
視線の先を窺えば、金髪に青い目をしたこの国の王ギヨムと目が合った。五十七歳になる王は、私の記憶の中の姿よりもだいぶ老けていたが、美男子だった面影は残されていて、今もなお女性達の心を騒がせるのに相応しい容貌をしていた。
──宝石姫と聞いていたからどのような美姫が来るかと思っていたのに、醜女ではないか。
彼が私とのお見合いの場で言い捨てた言葉を、一字一句覚えている。
醜女で悪かったわね。例の言葉を思い出し、咄嗟に睨みつけてしまった。でも王はそんな私の態度には気がつかなかったようで、両手を広げてイヴァンを招いた。
イヴァンに連れられて上座へと向かうと、上機嫌の陛下と、その隣には影のようにひっそりしている王太子夫婦と、その息子であり本日の主役である新郎の王子と、新婦がいた。
新郎、新婦は私達を前にして唖然としていた。何だか主役を食ってしまったように思われて申し訳なく思う。
「遠路はるばる良く来て下さった。イヴァン陛下」
「この度はおめでとうございます。王孫殿下も美しい奥方さまを娶られて、この国はいっそう輝きを増すことでしょうな。太陽王ギヨム陛下」
「何をおっしゃるイヴァン陛下こそ。あなたの国の隆盛は輝かしいばかりと聞く。まるでこの場にクロスライト国の神々が舞い降りたようですな」
お互いに王達は互いの腕を軽くたたき合う。この人達が会うのはそんなに多くないと思うのだけど、知らない人から見れば、この二人は親しい間柄なのかと誤解した事だろう。
ギヨム陛下は孫のお祝いの場を、私達が訪れたことで、孫達が霞んでしまったとは思わせないような言い回しをしていた。
私達が神代の衣装を着ていることで、神さまが祝福に来てくれたなどと、上手い言い訳をしてくれた。
これで私達が幾ら注目されようと、皆に罪悪感を持たなくても済むし、あちらも神さま相手ならば仕方ないことと割り切ってくれそうだ。
「今宵は雄々しいクロスライト国の大神と、麗しい女神様が寿ぎに来て下さった。素晴らしい夜になりそうだ。そうは思わないか? ヘンリー?」
「さようで。クルトもクロスライト国の大神さまからの祝福を受けるなんて一生の記念になることでしょう」
国王の言葉に息子の王太子が大袈裟に同意する。二人ともわざとらしい持ち上げ方に、何か良からぬ事を企んでいるのではないかと疑いたくなる。
前世ソニアだった私を嫌っていた国王は、私を視界の中に入れるのも嫌がっていたくせに、こちらを意味ありげにチラチラ見てくるので何だか気持ち悪い。
「クロスライト国の大神さまの名前は存知あげているが、そちらの美しい女神様の御名を教えては頂けないだろうか?」
ギヨム陛下は私を凝視していた。肉体が老いてきているのが見た目に分かると言うのに、彼の中の雄はまだまだ健在なようで、私を舌なめずりして狙い時を見定めてでもいるようで怖い。
思わずイヴァンに取りすがると、彼は私を胸元に抱き寄せた。
「どうやら王妃の具合が悪いらしい。今宵はこのような大勢の人の熱気に当てられて酔ったようです。紹介は今度の機会にでも宜しいか? 王妃を早く休ませたい」
「それはこちらが至らぬせいで申し訳なかった。侍従長、すぐにクロスライト国王夫妻をお部屋に案内せよ」
国王の後ろに控えていた侍従長が前に進み出て、「こちらへ」と、誘導してくれる。そのおかげで盛り上げる会場からすぐに廊下へと出て宛がわれていた客間へと戻ることが出来た。




