66話・イヴァンの演出
クロスライト国の王族の結婚式は他国とはちょっと違う。神前式だが古代の神の前で誓うので、この国に伝わる正装となる。それは古代の民族衣装となるもので、現在その衣装に使われる生地の素材がなかなか手に入りにくい物である為に希少で高額な価格となる。その金額は、生地一枚で城一つ難なく買えるとまで言われている。
それとその時に使用した金細工で出来たサークレットには大粒のルビーの宝石がついていて、それは初代の王から引き継がれてきた年代ものなので売ればどれぐらいになるのか想像もつかない代物だ。
それを地味と言って良いものかどうなのか。
「別に他の人と比べることないと思うけど。私は満足しているし、逆に私達のような式を他の国の人達はしないと思うから希少じゃない?」
「そうか?」
「そうよ」
強気で言えば、イヴァンがぽそっと言った。
「あの日、レナを着飾らせたかった。暴動が起きたせいで挙式のみとなっていただろう?」
「ああ、結婚披露パーティーは中止となったわよね。あれは仕方ないわ」
イヴァンは悔やんでいるようだった。私達の結婚式は国境付近で暴動が起きて、結婚式が簡略化されたのだから。でも、私は仕方ない事と割り切っていたし、あの時は披露パーティーの事よりも、イヴァンとの初夜について悩んでいたので、彼が暴動を押さえる為に出立して助かったとさえ思っていた。
その事をイヴァンは今も気にしていたようだ。
「あれは仕方ない事よ。そう気にしないで」
「おまえならそう言うと思っていた」
「イヴァン?」
「だからこちらに滞在する間、レナを着飾らせることにした。もちろん、それに余も付き合うぞ」
「お着替えするってこと……? 普段していることじゃない?」
「まあ、楽しみにしていろ」
何か秘密めいた事を言ってイヴァンは微笑んだ。
その晩の晩餐会でその理由が分かった。私達は古式ゆかしい格好をすることになった。私達の結婚式で着ていた衣装での参加だ。
古代の神々を思わせるような衣装にマントを合わせ、イヴァンはサークレットを額につけていたが、私は両脇の髪の毛を編みこんで金のサークレットを頭に乗せた。
各国の王族らが招かれたこの場で、このような格好で参加して大丈夫なのかと思ったが、イヴァンは気にすることはないと言う。
「本当にこの格好で参加するの?」
「別におかしくないだろう? 我が国の正装だぞ」
目出度い席で纏う正装なのだからとイヴァンは言う。それはそうだけど皆さん、きっと定番のドレスに夜会用の紳士服のような気がするから、これでは私達が悪目立ちするだけではないかと思ったのに、イヴァンは意に介さなかった。
大広間に二人で入室すると案の定、皆の視線が一斉に集まる。
「あれはクロスライト国王夫妻か」
「まあ、なんて斬新なのかしら? 素敵」
「お二方とも神さまのように神々しい」
大勢の人が集う大広間の中をイヴァンは私を連れて堂々と歩く。貶されるよりは賞賛の声の方がありがたいが、これでは本日の主役達よりも目立ってしまうではないかと思っていたら、壇上の方から鋭い視線を感じた。




