65話・不満になんて思ってないのに
そして半年後。私達は因縁のフランベルジュ国の来賓として国王の孫王子の結婚式に招かれていた。他にも近隣諸国の王族らも招かれている。
挙式は大きな大聖堂で行われ、歴代の王達もここで挙式を上げてきたらしい。
聖堂内の窓は天井から床まで届きそうな大きさで、ステンドグラスとなっていた。ストーリー性のあるステンドグラスで、ある羊飼いの少年がモチーフとなったものだ。
六歳くらいの羊飼いの少年が天使に囲まれているシーンから始まり、次に神さまが現れて驚くシーン、神さまに啓示を受けて王冠を被るシーン。
この国の初代王は牧童だったという説がある。その王は生まれてすぐに父を亡くし、母の手で育てられてきたが、六歳の時に目の前に神が現れ、おまえが王となってこの国を治めよ。と、告げたらしい。
神からの告知なんて後付けのようなものだ。実際には王の庶子でしかなかった少年を政治的に利用しようとした者達が、彼を担ぎ上げてお飾りの王としたのだ。
牧童だった少年は教養もなく、政治にも関心がなかったのではないかと思う。その彼が王になってした事と言えば、美味しい酒に酔いしれて綺麗な女達に囲まれて遊興に耽っていただけだ。
それをご丁寧にも後々の王達に、政治など些末なこと。そのようなことは陛下自らしなくとも、臣下がやるべきだなどと遺言として言い残していったそうだ。
そのせいでこの国の王は、政治とは臣下にさせるもの。自分がすべきことではないと思い込んでいる節がある。
今の王も政治なんて関わらないと聞くし、今後も臣下任せの王が続くのだろう。たまたま臣下達が有能だったから、彼らは遊んでこられた。でも、今日式を挙げている王子はそれを分かっているのだろうか? もし、分かっていなかったのなら彼の御世にはこの国は無くなっているかも知れない。
ぼんやりと新郎と花嫁の背を見ていたらイヴァンに囁かれた。
「帰ったらもう一度、結婚式をあげようか?」
「結婚式は一度でいいわよ。どうしてもう一度、する必要があるの?」
「こいつらを見ていたら自分達の式がお粗末に思えてきてな」
イヴァンの目は新郎、新婦に向いていた。私は首を振る。
「この仰々しいのが必要? 必要ないわよ」
「そうは言ってもなぁ。レナは初婚だったのに、余が再婚と言うこともあり地味にしすぎたからな」
私達のヒソヒソ話をよそに挙式は荘厳な聖堂の中で厳かに行われていた。
イヴァンが気にしているのは新郎、新婦の衣装のようだ。新郎である王子の服は銀色をしていたが、布地にきらびやかなダイヤモンドを幾つも散りばめられていて、彼が動くことにキラキラと輝いていた。
そして花嫁である公爵令嬢のドレスはと言えば、全面にびっしりと小さな真珠が隙間なく縫い付けられていた。履いている靴にも同様に真珠が縫い付けられている。
彼らが動くことにステンドグラスから差し込む陽光に反射して目がチカチカするので、目のやり場に困るわと困惑していたのを、イヴァンは私が自分の挙式の時と比べて不満を抱いていると思ったらしかった。全然、そんなことないのに。
イヴァンは不服そうだけど、私にとっては十分な式だった。私達は挙式の後、王都中を馬車でパレードをした。パレードには国中から集まってきた大勢の国民達に祝福してもらった。それがどんなに嬉しかったか。あの日は私にとって忘れがたい日となった。




