64話・照れますの
「行くのでしょう?」
「おまえは……」
「私も行きます」
「無理に行かなくともいいのだぞ。あそこの王とは特に交流があるわけでもない」
イヴァンは行きたくなさそうだった。断るつもりだったのかも知れない。でも私は行こうと誘った。
「私は行ってみたいわ。あなたと旅行に行きたいの」
「旅行」
「そうよ。旅行。二人でお出かけなんてしたことないじゃない?」
言われてみればとイヴァンが首を傾げる。
「駄目かしら?」
イヴァンを見上げたら、仕方ないなと彼の呟きが聞こえた。
「でもいいのか? あそこの王はおまえがソニアの時に、お見合いした王子だろう?」
「別に気にしてないわ」
「本当か?」
イヴァンはフランベルジュの王が、前世私のお見合い相手と分かっていたから渋っていたらしい。私がまだその事を引きずっているかも知れないと思って躊躇していたのかと思ったけど、彼としては他にも理由があったらしい。
「あそこの王は女に手が早いと聞く」
「ソニアの時は思い切り拒まれたわよ」
だからそんな心配はいらないんじゃないかと言ったら「心配だ」とイヴァンが唸る。
「今のレナは若いし、あいつ好みの顔立ちをしている。ちょっかい出されそうで気に食わん」
「イヴァンが側にいるのだもの。あの人もそう簡単に手を出せないでしょう?」
イヴァンが側で守ってくれるから大丈夫じゃないかしら? と、言えば彼は迷っているようだ。
「それにあちらはもうオジサン超えているでしょう? 王孫までいるのだからもう大人しくなったのではない?」
寄る年波には勝てないと思うからというとようやく腹を括ったようだ。
「招待に応じるか」
「ヴァン、ありがとう。今から楽しみだわ。さっそく旅行の用意をしなくちゃ」
「おいおい、まだ半年も先のことだぞ」
「だってヴァンとお出かけが嬉しいんだもの」
「可愛いな。おまえってやつは」
イヴァンが顔を寄せてきて頬にキスしてきた。不意打ちでこんな事をされると恥ずかしくて仕方ない。
「イヴァン」
「照れているのか?」
キスされた部分を手で抑えながら、イヴァンを軽く睨むと微笑みが返ってきた。




