59話・イヴァンにばれました
「辛くないか?」
翌朝、先に目が覚めていたらしいイヴァンが上半身を寝台の上に起こしていた。寝台から腕を伸ばしサイドテーブルの上に置かれた水差しを手に取ると、コップに移した水を差し出してくる。
昨晩は喘ぎすぎて喉の渇きを感じていたからタイミング良く差し出されたコップが有り難かった。水で喉を潤してからイヴァンを見た。
「ヴァンさま。先に目が覚めていたの?」
「ああ。おまえの寝顔を見て余韻に浸っていた」
「まあ、恥ずかしいわ」
昨晩、イヴァンに求められたことを赤裸々に思い出して恥ずかしくなる。その私の頬をイヴァンの大きな手が包む。その手に自分の手を重ねた。
「なあ、レナ」
「なあに? ヴァンさま」
「愛している」
「私も」
何気ない一言がさらりと言えた。愛していると前にイヴァンに言われた時に言い返せない自分がいた。でも、今は素直に同意出来る。そして自然にキスを交わし合うこの瞬間が嫌ではなかった。
「レナ。おまえは姉上なのだろう?」
「……?!」
迷いなく問いかけてきた相手を私は凝視した。私の顔色を読んだようにイヴァンが言う。
「おまえはそんなに接触していなかったはずのキルサンの子供の頃の愛称を知っていたし、姉上のノートに固執していた」
「それは……」
過去の遺物を何とか消し去りたいと思う行動は常識を逸脱していただろうか?
「皆、亡き王女の遺品なんて気にしないからな」
「……」
イヴァンには見抜かれていたようだ。
「おまえと初めて会った時から初めて会った気がしなかった。てっきり兄上の子だから、兄上に似た何かをおまえに感じ取っているだけかもしれないと思っていた。それにおまえは余の妻になるのを全力で嫌がっていたしな」
「そりゃあ、そうよ。初め抵抗はあったわ。あなたは政敵で弟だったんだもの」
からかうように言われて、思わず吐露した言葉にイヴァンが嬉々として抱きついてきた。
「姉上!」
「違う。今はレナータだからっ」
「余にとってはどっちも変わらぬ。ああ。レナが姉上だった」
頬ずりされる。息苦しさを感じて彼の腕から逃れようとしたのに離してもらえなかった。
「ちょっ、イヴァン。気持ち悪くないの?」
「なぜ?」
「なぜって私は前世、ソニアであなたとは異母姉弟。色々、思うところとかあったでしょう?」
「ああ、もう少し早く産まれれば姉上を妻に迎えたいと思っていた。姉上は余の初恋の人だった」
「はあ? 姉弟なのに? 何馬鹿なことを言っているの?」
イヴァンは前世、義姉だった私に好意を抱いていたと言うことを隠しもしなかった。




