58話・あなたにご褒美差し上げます
キルサンは熟年男となり、父親のラーヴル・アスピダに外見が良く似てきたが節操ないところまで似ているとは思いたくなかった。幻滅した。
「キルサンは己の子を王位に就かせることを考えた。先の将軍と同じ事を考えるなんて血は争えないな」
「……あなた、キルサンと……?」
嫌な予感がした。先の将軍はイヴァンの母とも関係があったと聞く。
前将軍ラーヴル・アスピダは罪深い男だ。己の血を引いたイヴァンを王位に就かせる為に……?
「……ヴァン……」
大きな秘密を抱えたイヴァンが覆い被さってきた。私よりも図体の大きな男を抱き留めると、嘆くような呟きが聞こえた。
「レナ。余を照らす明かり。余の真実……」
「イヴァン……」
「余のこの手は血塗られている。そんな余が貴方を求めるなんて罰深いことだな」
自虐的なその言葉を可哀相に思った。慰めを求めているように感じられてならない。自分の方へと彼の頭を抱き寄せると肩口にイヴァンの顔が落ちた。
彼の今まで抱えてきた重い荷を、自分も半分持ってあげられたならと思った。
「余は妻殺しだ」
「あの御方はヴァンさまを利用しようとしただけです。王の子を謀るなんて罪ですわ」
イヴァンが王位に就くために特権階級でも力ある女性との縁を望むのは仕方ないこと。それに罪悪感など感じて欲しくない。
ただ、相手の女性が王妃になる重要性を感じてなかった為に起きた悲劇だ。前イサイ公爵は娘を甘やかしていたとも聞くから、娘は結婚前に他の男と関係を結ぶことを悪いとは思ってなかったのだろう。
そればかりか好いてもいない相手と結婚することに納得していなかったのかも知れなかった。
「前王妃さまは幽閉されてからは大人しくなさっていましたの?」
「これ幸いと他にも見目の良い男を侍らしていたようだ。何度か子を流したらしい」
前王妃さまを幽閉してから一度もイヴァンは会いに行ってない。その王妃が何度か子を流したというのは明らかにイヴァン以外の男性と関係を結んでいた証拠だ。
「余はあれに嫌われていたからな」
「ヴァンさまはこんなにもいい男なのに、前王妃さまは見る目がありませんでしたのね」
結婚生活が初めから上手く行ってなかっただなんて、イヴァンが可哀相すぎる。私や世間は、何も知らずにイヴァンが王妃を身勝手にも幽閉して一度も会いに行かなかった非道王と思ってきた。そこには誰にも話せない事情があったのに。
私はイヴァンの頭をよしよしと撫でた。
「ヴァンさま。あなたにご褒美を差し上げます」
「褒美?」
「私ではお嫌?」
「レナを? いいのか?」
暢気に返してきた声が裏返った。彼は顔をあげて信じられないと言った顔をした。
イヴァンとはそういう関係を望まなかったので、散々焦らしてきた。彼が私の言葉を疑うのは当然に思われた。私の言葉を聞いてイヴァンが待ちきれないと言った様子で早急に唇を重ねてきた。
「レナ」
「ん……」
唇が熱かった。何度も何度も触れあわされて啄まれる。それが普段よりも執拗に感じられた。




