50話・盲点でした
「どうみてもあの女には力不足だろう。いきなり王女を騙るとは無理がある」
「でも、そんな女にコロリと騙されてしまった男達は結構いたらしいですよ。彼女が男達から巻き上げた金額は相当なものらしいですから」
「馬鹿な男が多すぎる。特に先進国の筆頭と謳われているフランベルジュの王孫や、そのブレーン達が引っかかるとはな。女を見る目がないのか?」
「あの国の王族は所詮、見た目主義ですから。頭空っぽでも良いのですよ。見た目さえ良ければ」
「そうだったな。賢い女は嫌っていた。何が太陽王だ。今では斜陽の王のくせに」
バラムとイヴァンはフランベルジュ国に対し、良い気持ちを持ってないようだ。二人して何か思い出したように言っていた。二人の苛立ちが感じ取れた。
「陛下。お祖父さま?」
二人の態度を訝ると、イヴァンが何でも無いと言ってくる。
「ああ、悪い、悪い。ちょっとな、以前フランベルジュ国の王と色々あったものだから」
「あの国の王とは仲が悪いのですか?」
フランベルジュの国王とイヴァンは個人的な付き合いでもあるんだろうか? 前世でもそんなに親しかった気はしないのだけど?
「向こうがこちらをどう思っているかは分からないが、以前あの王には我が国の誇る宝を馬鹿にされたことがあったのだ」
「宝って……ソニア王女?」
イヴァンの言葉にひょっとして?と、思う。ソニアを慕っているイヴァンが怒る理由ってもしや?
「ああ。あそこの顔だけ王は我が姉を愚弄した。女だてらに政治に関心を持つなんておかしいと言い放っただけではなく、外見まで貶めた。許せぬ所業だ」
「私も同感です。腐ってしまえと思いますね」
「本当にな。跡継ぎもいるというのにまだ萎えないらしいからな。さすがは太陽王。お元気なことだ」
二人とも何気なく閨事情にまで触れていますが、この場に私もいることを忘れないで欲しい。ふたりともソニア推しなのは良く分かったけれど。
それにしてもなぜ二人ともソニアだった私が、フランベルジュ王に外見を馬鹿にされたことを知っているのだろう?
フランベルジュ王がこの国を訪れたのは一度だけ。ソニアとのお見合いの日だ。しかもあの時は大勢の使用人達は遠巻きに私達二人の様子を窺っていたし、会話の内容まで聞かれたはずはない。
私も誰にも言ってなかったし。それなのに知られていると言うことはもしかして私、何か忘れてない?
「陛下は良くご存じなのですね? 見たように言いますが、その時に一緒にいらしたのですか?」
「いいや。この間、そなたに渡しただろう。姉上のノートだ。あれに全て書かれていた」
──あー。盲点だった。
ノートを取り返したことに安堵して中身を確認してない。その可能性を忘れていた。
私は思いつくまま、書き綴っていたものね。あの顔だけ男のことも糞メソに書いていたような気がする。
お祖父さまも知っていると言うことはイヴァンが話したか、あのノートを二人で読んだんだな。
今生でこんな小っ恥ずかしい思いをするなら、ノートになんて書くんじゃなかった。
頭を抱えそうになったらイヴァンがどうした? と、聞いてきた。どうもこうもない。




