49話・タマーラの正体は
「あのタマーラは何者なのでしょう? 証拠として軍の階級のブローチをお持ちでしたけど?」
「さあな。恐らく母親が娼婦で、兄上の配下の誰かからもらったんじゃないか? 兄上は功績を立てたものにちょくちょく自分の物を与えていた」
イヴァンは、兄上は物に執着しない人だったからと語った。若い頃は軍に身を置いていたイヴァンが言うのだからそれは、戦場ではよく見られた光景だったのだろう。
「兄上も浮かばれないな」
生前、功績を立てた配下を労う形で与えていたに違いないブローチが他人の手に渡って、しかもそれを悪用されていたとはと、イヴァンが嘆く。
「あの人はアレクセイ殿下の娘だと母親に言われて育ってきたのでしょうか?」
もしも、そうだとするとその母親が騙っていたわけでそれを鵜呑みにしていただけとしたら可哀相にも思ったが、バラムがその必要はないと言い切った。
「タマーラは社交界を渡り歩く娼婦で詐欺師でした。彼女は容姿の良さを鼻にかけ、特権階級の男達に自称王女だと名乗り、言い寄って貢がせていたようです。フランベルジュ国では王孫である王子に近づいて、その遊び友達らと親密な仲になっておりましたから、私が連れ帰らなければ最悪フランベルジュ国との間に問題が起こる所でした」
フランベルジュと聞いて、イヴァンが眉を顰めた。私は遠い日々に出会った美少年を思い出した。前世、私を酷い言葉で罵った王子は、今や王位についている。その孫がタマーラに誑かされていたと聞き、因果な巡り会いを思った。
「妙に男に手慣れた様子だったな」
「調べでは実家は農家だったようで田舎暮らしを嫌い、家を飛び出し街に出てきたものの、住む所や食べる物に困って酒場で酌婦をしていたそうです」
バラムはイヴァンの命で、偽王女を探っていたようだった。
「タマーラの両親は心配していただろう」
「はい。タマーラが家を飛び出してからずっと彼女の行方を捜していたようです。我々が真相を伝えると驚き、王族の御方の名を騙るなんてと大層嘆いておりましたよ」
タマーラの両親は常識的な人だったらしい。どうしてそのような親からあのような娘が生まれてしまったのか分からないけれど。
「やはりタマーラは兄上とは何の関係もなかったか?」
「一応、両親に確認を取りましたが、彼女がアレクセイ殿下の娘という事実はありませんでした。一目瞭然ですけどね」
「そうだな。彼女がアレクセイ兄上の娘ならば例の瞳を持っていて当然だからな。ところであのブローチはどこで手に入れたものだった?」
「タマーラが酒場で酌婦をしていた時に、彼女の気を惹こうと質屋の息子が家に珍しい質草があると言って、そのブローチをプレゼントしたらしいです。そのブローチが亡きアレクセイ殿下の物と知って、今回のことを企んだようですな」




