48話・これも宿命ですわ
「以前、あなたさまが私の両親について伺った時の反応や、言葉から考えました」
「さすがレナだな。余の妻は聡明すぎる」
感心したように言うイヴァンに、私は釘を刺すことにした。
「でもそうなるとあなたさまと私は叔父、姪の立場になります。この国では王族なら叔父、姪でも結婚出来ない訳ではありませんが私がアレクセイ殿下の娘だと知られると、血縁関係から血が濃くなりすぎると指摘する者が現れないとも限りませんよね?」
私の事を公開して、さっさと側室候補を側に置いたら如何? と、言った私にイヴァンは笑った。
「その辺は大丈夫だ。問題ない。いずれそなたとの間に子をもうければ煩い爺どもは黙るさ」
イヴァンのなあ。と、同意を求める声にバラムは苦笑で返していた。
その二人の反応から今までにもそのような事は起こっていたようだと察する。イヴァンが言いくるめてきたようだ。
「おまえには謝らなければならないことがある。余のせいでおまえの両親が亡くなった」
「陛下。それは……」
バラムが違いますと言いかけたのを、イヴァンは手で制する。
「余の軽々しい行動が、おまえから両親を奪うことになった。おまえには恨まれても仕方ないと思っている」
そう話したイヴァンは深く傷ついた顔をしていた。口では偉そうにしていても、表情に出るようでは為政者としてまだまだね。イヴァン。
「それがどうしました?」
「レナ?」
「私は物心ついた時にはすでに両親はいませんでした。確かに私は両親の愛を知りません。でもだからと言って一度も寂しいなんて思ったことはありませんわ。祖父達には愛されて育ちましたから」
「レナータ……」
イヴァンにその事で罪悪感なんて抱く必要などないのだと言えば、祖父が目元を指先で押さえていた。
今生での私は周囲の人達に愛されて育った。祖父母はもちろんのこと、育ての両親だって気にかけてもらっていたのを、イヴァンや祖父の言葉からヒシヒシと感じている。
そんな状態でイヴァンを恨むなど筋違いだし、祖父母達にだって何の不満もない。
「そのように謝らないで下さい。私の両親が亡くなったのはこんなことを言っては不謹慎かも知れませんが、それも宿命だったのですわ」
「宿命か」
前世の記憶を持つ私だから分かることもある。これは定められていたことなのだ。人間なんかが太刀打ち出来る領域ではないのかもしれない。
そうでなければ私が弟の娘に転生なんてあり得るだろうか? そこには人間の力では到底及ばない、目に見えない力のようなものが働いているように思えた。
「神の思し召しなのかもしれないな」
イヴァンが呟く。私は神というものを前世では信じていなかったけど、それらしいものは存在するのではないかと今生では思えるぐらいになっていた。




