43話・イヴァンのばか
「貴族の子息らには、レナータは余のお気に入りだから手を出すなと釘を刺していた。それで皆、レナータに言い寄りたくとも、余の目が怖くておまえに言葉をかけるのはもちろんのこと、誘いをかけることも出来なかったのだろう」
「え、うそ……私がそんなに小さな時から? ヴァンさまはもしかしてロリコン?」
「馬鹿か。そんなわけあるか。あの頃からおまえは可愛い顔をしていたから、邪な男が近づかないように牽制していただけだ」
私の言葉にイヴァンが呆れたような声を出した。でもその言い訳って、やっぱり──?
「おかしな事を考えているな? 余はバラムの事を思って周囲の男達に釘を刺しておいただけだからな。おまえに何かあればバラムが悲しむ」
「本当ですか?」
「本当だ。」
「何だか嘘くさいです。ヴァンさま」
「まあ、あまりその辺は突っ込むな。おまえが気にすることじゃない」
「確かにそういうのは本人の嗜好もあるでしょうから私がとやかく言うことではないと思いますけど、相手との合意でお願い致しますね?」
私には幼女への恋愛感情って理解しにくいけど。イヴァンを見つめれば「違うぞ」と、私の頭の中を読んだように言われた。
でもよくよく考えれば私って皆に誤解されていたって事よね? 陛下のお気に入りと言われたら誰だって、二人の親密さを疑わない? イヴァンと私は特別な仲なのかって思うよね?
もとはといえばイヴァンが意味ありげに言ったせい。 イヴァンが悪いんじゃないか。
「レナは誰よりも美人で聡いからな。誰もが狙っていたぞ」
そんなの後出しのように言われても全然嬉しくない。もしかしたら私が他の異性と縁を結べなかったのは、イヴァンが裏で手を回していたせい?
もしかしたらイヴァンが握りつぶした中に、私と結ばれるべき相手がいたとしたらどうしてくれる?
そう思ったら面白くなく思えてイヴァンの顔を見ていたくなくなった。
「……ヴァンの馬鹿」
「怒ったのか? レナ」
イヴァンに背を向けると、背後から声がかかった。
前世では悲しいことに、ソニアだった私は全然、異性にモテなかった。嫌われていた。せめて今生では誰かに「好きだよ」なんて言われたかった。
それが私の密かな望みだった。それなのにイヴァンはいとも簡単に潰してくれた。何してくれちゃっているの?
イヴァンのくせに。何だか悔しい。
「なぁ、レナ。拗ねているのか?」
「別に」
「そう怒るな。拗ねているおまえも可愛いが。仲直りしよう」
「あ。ちょっと……! 見ないで」
イヴァンにしてやられたのが悔しすぎて、目頭が熱くなってきた。気のせいか鼻の先がツンとする。
見られたくないのに、イヴァンが顔を覗き込んできた。
「レナ? 泣いているのか?」
「……もう、嫌だ」
シーツに顔を伏せようとしたのを、顎を取られて叶わなかった。




