40話・ソニアの死因
「……くれ。……上。……くなっ。置いていかないでくれ……」
「ヴァンさま、ヴァンさまっ」
夜中、ベッドの揺れに気がついて体を起こせば、隣で寝ているイヴァンが魘されていた。大汗をかいている彼にただ事ではないような気がして体を揺すぶると、しばらくして彼は目を開いた。
「……レナ?」
「魘されていました。何か悪夢でも見たのですか?」
「姉上が死んだ夢を見た」
「……!」
イヴァンは前世の私が死んだ時のことを夢に見たらしい。
「あれから何年も経つというのに忘れられぬ。時が来たら姉上のことは解放しようと思っていた。その為に独房へ入れていたのだ」
前世の私は捕らわれてある塔の独房に幽閉されていた。独房とはその時のことを言っているのだろう。
「独房ならやつらの手も届かないと思っていたのだ。見張りの兵も増やしていた。それなのに……」
くそっと、イヴァンは拳をシーツの上に突き立てた。
「余は姉上を救えなかった。夢の中でも一歩出遅れてしまう。あともう少しで姉上を救えるところだったのに……」
イヴァンは今も前世の私に捕らわれているような感じがした。彼の言い方だと私を何かから守ってでもいたような言い方だ。
私は汗で湿ったシャツを肌に纏わり付かせている彼を促した。
「ヴァンさま。お着替えをなさいませ。体が冷えています。風邪をひかれますよ」
深夜なので部屋付きの女官達は、もう就寝している時間だ。さすがに女官達を起こすのも気が引けてイヴァンに部屋で着替えてくるように言えば、大人しく寝台を下り自室に向かった。
そして真新しいシャツに着替えたイヴァンは寝台に戻ってくると、私の隣に潜り込んでくる。
私は転生してからずっと自分はイヴァンに殺されたものと思い込んでいた。死ぬ前の自分の記憶は、宮殿を追い出された後に収容された塔の生活で終わっている。
どうやって死んだのかは覚えていないが、転生してここにいるということは、塔の中で死んだと思われた。
死因は何だったのだろうと気になった。
「ヴァンさま」
「ん。何だ?」
「ソニア殿下はどのようなお亡くなり方をされたのですか?」
「姉上は幽閉されていた塔で毒を盛られて亡くなられた」
「服毒ですか?」
何に毒を盛られたというのだろう? 変な味の物を口にした覚えはないけれど?
「ワインに毒が仕込まれていた。毒は即効性のものではなくて思考を徐々に奪っていく物で……」
「ワイン?」
私はイヴァンの言葉で確か就寝前にふらついて頭を強く打ったことを思い出した。ワインを飲んでいて急に具合が悪くなり、ベッドに近づこうとしたら意識が朦朧としてきて足を滑らせ、頭を打ったことがあった。
その後どうなったかは思い出せないので、もしかしたらその時に死んだのかもしれない。
「毒入りワインを飲んで嘔吐した上に、意識が朦朧としていて足でも滑らせたのだろう。頭を強く打ったのが致命的になったようだった」




