35話・羨ましい二人の仲
「そんなことは考えてもみませんでした。分かりました。大人しくしていることにします」
「おまえは余と並び立つ存在だ。余の側から勝手に離れることは許さん」
イヴァンは、私とアリスを対面させることを望んでないようだ。宮殿で大人しくしていろと言われて渋々了承していると、視界の隅でイサイ公爵が肩を揺らしている姿が目に入った。
「公爵。何か?」
「いえ。陛下は妃殿下に対し過保護なのだなと思いまして。宮殿の女官達からはよく聞かされていたのですが、こうして目にするまで信じられなかったものですから」
「元々、レナータは余のお気に入りだったのだ。そう不思議がることでもあるまい?」
イヴァンはイサイ公爵が笑いを堪えているのを見て悪いかと開き直る。聞いている私は、イヴァンがあまりにも堂々としているので恥ずかしくなってくる。
「前から陛下はレナータさまに構い過ぎる点がありましたが、それが度を超すと妃殿下に嫌われますよ」
「……」
イサイ公爵の指摘にイヴァンは黙ってしまった。私は現イサイ公爵について良く知らないので、イヴァンに対して物怖じしない言い方に驚いた。
「イサイ公爵はずい分、陛下に対し気さくなんですね?」
「ああ。私はこの御方が王子だった頃、軍の一個中隊を任されておりましてね、この方が隊長で自分はその副隊長を務めておりました」
「副隊長?」
そう言えばイヴァンは前世、私が幽閉先で命を落とした時まで軍に身を置いていた。あの頃から一緒にいたのなら二人の付き合いは長いということだろう。
「まあ、相棒のようなものですね。陛下とは私は一つしか年も変わらないのですよ。軍にいた時から陛下のことなら何でも知っております」
「おいおい、テオ。余計なことを言うなよ」
「ヴァン。言われたくなかったらもっとシャンとしろ。シャンと」
イサイ公爵のことをイヴァンはテオと愛称で呼んでいた。イサイ公爵の名は確かテオドロスという名前だったはずだ。
テオ、ヴァンと呼び合うぐらいなのだから、二人は気心知れた仲のようだ。
「失礼致しました。妃殿下。陛下とはこのように付き合いが長いものですから、他の者の目がない時にはこのような口調になってしまいまして申し訳ありません」
「公爵、別に謝ることでは無いですわ。私には咎める気はありませんもの。そのうちお二人の青春時代の話など、いつか聞かせて頂けたなら嬉しいですわ」
「そうですねぇ。ヴァンの失敗談なら沢山、ありますよ。どれからお話し致しましょうか?」
「テオ。その辺にしておけよ」
「おおっ、怖い、怖い。では私はこの辺で退出致しましょう。ではレナータさま。失礼致します」
イヴァンに睨まれて、慌てて退出していくイサイ公爵。前世ではもちろんのこと、自分と対等に話せる同性のいない私には二人の仲が羨ましく思えた。




