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33話・厚顔無恥な手紙

 ヨアキムは婚約時代から筆無精だった。誰かに手紙を書くなんて面倒くさくてやるような人ではない。



「あの常識を弁えない女か」

「はい。しかも送る相手を間違えたらしく……」



  陛下の言葉に公爵は頭を抱えるような仕草を見せた。アリスのことだから自分達がやらかした事で、前イサイ公爵が家督を甥に譲ったことを知らないのかも知れなかった。



「読んでも良いか?」

「はい。どうぞ」



  イヴァンは公爵が差し出した手紙の中身を広げると笑い出した。



「陛下?」

「これはなかなかに素晴らしい喜劇だぞ。レナ。おまえも読んでみろ」

「はあ?」



  お腹を抱えて笑うイヴァンから手紙を渡される。すでに先に目を通していたはずのイサイ公爵を窺えば失笑していた。それほどまでに酷い文面なのかと思えば、かなりぶっ飛んだ文面になっていた。

  書き出しの始まりはお祖父さまお元気ですか?で始まり、最後はどうぞお元気でと締められていた。


  お祖父さまってあなたのお祖父さまじゃないでしょうが? しかも「どうぞお元気で」ってよく書けたものだ。ただ今、前イサイ公爵はあなた達のしでかした事で心痛祟って絶賛静養中だというのに。


  アリス嬢はなかなかお目出度い頭をなさっているようで、現在、自分達は山中のある村でお世話になっていると暴露し、そこの村長が自分達の脱走に手を貸してくれた仲間の依頼で世話をしてくれていると書いていた。


  そこでの生活に彼女は不満が大ありのようで、ここで出される食事は石のように堅いパンと、雑草のような野菜屑が浮かぶスープ。そして時々、温めたミルクしか出ない。

  王都育ちの自分達にはそのような食事は口に合わなくて困る。王都の焼き菓子や、果実の飲み物が恋しい。


  自分達はその村で一番大きな村長の家で客人として迎えられたが、着ている服もゴワゴワしていて着心地が悪い。このようなものを自分達に着せるなんて意地悪しているに違いない。他の服がないのかと聞いたら、これはこの村で一番良いものだと言われ、他に貸せる服はないと言われた。

  村人のくせに生意気な。でも、自分達はここの村人ではない。ヨアキムは王子様だし、自分だって貴族の娘。


  ここでの暮らしは自分達に馴染むはずもない。ヨアキムさまは毎日、こんな所にいたくない。早く宮殿に帰りたいと望んでいる。自分はそんなヨアキム様を助けてあげたい。

  どうかお祖父さま、ヨアキム様の為にお金を用立ててくれませんか? お願いします。と、言うものだった。



「この娘はよっぽど頭がいかれているらしいな。どう思う? レナ」

「陛下のおっしゃる通りかなりのお馬鹿さんのようです。修道院から脱走したことで、自分の罪を綺麗さっぱり忘れてしまったようですわね。それに加えて脱走の罪も加わったとは考えてないのでしょうね」

「厚顔無恥とはこのことだな。久々に大笑いさせてもらったわ」

「ヨアキム様もこのような娘に引っかかってしまっただなんてお可哀想に。災難でしたわ」



  アリスがこのような手紙をこちらに書いて送っていただなんて知ったなら、あのプライド高いヨアキムにとってかなりのダメージになりそうな気がした。


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