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摂政姫の転生~政敵だった義弟が夫になりました!~  作者: 朝比奈呈
◇前世の記憶思い出しました
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3話・陛下のせいで誤解されましたよ


八年後。私は十四歳になっていた。許婚のヨアキム殿下は私より一つ年上の十五歳。二人の仲は当たらず触らずの仲に留まっていた。

ヨアキム殿下は陛下と仲が悪い。その父親から私は押しつけられた許婚と思っているらしく、公務では私と顔を合せるものの、必要以上に関わり合うことを避けているようにも思えた。


ヨアキム殿下は、陛下が王位に就く為の後ろ盾を必要とする為、王妃に迎えた大貴族の娘から生まれた。母親譲りの濃紺色の髪に青い瞳をした優男風の若者で、雄々しい容姿の父王には似ていない。

陛下はなぜかこの殿下を嫌っていた。いくら政略結婚とはいえ、亡き王妃が産んだたった一人の息子だというのに。


ある日。陛下に呼び出された後、まっすぐ帰宅しようと思っていた私は、廊下で許婚であるヨアキム殿下と行きあった。



「やあ、レナータ」

「ご機嫌よう。殿下」

「きみに話がある。ちょっといいかな?」

「何でしょうか?」



  ヨアキム殿下の方から個人的に声をかけられるなど初めての経験だ。何事かと思いながら彼に付いていくと、回廊で張り巡らされた噴水庭園に出た。そこまで私を連れてくると彼は言った。



「レナータ。きみには悪いと思っているが好きな女性が出来た」

「もしかしてアリス嬢ですか?」

「彼女のこと、知っていたのか?」

「ええ……まぁ」



  殿下について最近、噂話が出ていた。低位貴族の令嬢と親しくなって、許婚である私の立ち入りさえ認めてないのに、彼女だけは殿下の私室にすぐに通されるのだと、私の世話をしてくれている女官が憤慨して教えてくれた。

 女官達は、私が彼の許婚となってから毎日遅くまで王太子妃教育に明け暮れているのを知っていた。その私が殿下から蔑ろにされているように思われて、面白くないらしかった。


あの女官の言っていたことは本当だったなと思っていると、殿下が驚くことを言い出した。



「ならば話は早い。婚約破棄してくれないか。彼女と結婚する」

「本気ですか? 殿下。彼女には許婚がいるのに?」 



  殿下は意気揚々と言う。私はそれに対し聞き咎めた。彼女には実はゲラルドという許婚がいたのだ。それも女官情報で知っていた。

しかもゲラルドは陛下付きの侍従長セルギウスの甥。

ゲラルドも殿下の侍従をしている礼儀正しい若者だ。彼は殿下とは違って、王太子妃となる予定の私にも優しい気遣いをしてくれる若者だった。女官達の評判も良い。それだけにアリス嬢の評判は悪かった。

あんなにも良い許婚がありながら、夕刻になると殿下の部屋を訪れるアリス嬢の神経が信じられないと言われてもいた。


 彼女の許婚を裏切るような真似をするのか? と、言えば、気まずそうに殿下は目線を泳がせた。臣下の許婚を寝取ったことに対する罪悪感は持ち合わせていたようだ。



「もう、心は偽れそうにない。分かって欲しい。レナータ」

「殿下。恋とは熱病のようなものですよ」



  私は殿下に一時的な感情の盛り上がりで、道を踏み外すような事はして欲しくなかった。

陛下は殿下を好ましく思ってはいない。この事によって彼が追い詰められて何もかも失うことにでもなってしまえば、後味が悪いような気がした。


 殿下から見れば、私は陛下のお気に入りで実の息子よりも可愛がられて居る存在だと思われている。

その私が何を言っても信じてはもらえないかも知れないが、ヨアキム殿下をこの場で諫めなければ、今度はゲラルドが被害を蒙る。それだけは阻止しようと思い立った。


 私達の婚約は陛下が決めたもの。そう簡単に破棄など出来はしない。出来たとしてもそれなりの処罰が下ることを殿下は分かっていないのだろうかと頭が痛くなって来たところに反論がきた。



「そういうきみは恋をしたことがあるのか?」

「……」



  そう問われると答えに窮した。今生ではまだ十四歳。胸をときめかせるような相手には出会えていない。でも、前世では異性に憧れた経験くらいはあるのだ。儚く消え去ったけど。苦々しい思い出だ。



「きみには恋愛の経験もないのに、僕に説教をしようというのか?」

「そのようなつもりはありませんでした。気を悪くされたなら謝ります。申し訳ありませんでした」

「別にいい。では……」


「……ナ。レナ。ここにいたのか?」



  殿下が話を続けようとしたところに、私の名を呼びながら厄介な男が登場した。この男が現れると碌な事が起きない。しかも誤解を招きかねない愛称呼び。私はため息を付きたくなった。



「捜したぞ」

「陛下」



  殿下と二人で頭を下げると、陛下はヨアキム殿下のことなど視界にも入ってない様子で通り過ぎ、私の前にやってくると、片手を差し出してきた。



「ほら。忘れているぞ。おまえのだ」

「……ありがとうございます」



  陛下が差し出して来た無骨な掌には、視察に行った先で購入したという真珠の耳飾りがちょこんと乗っていた。私は先ほどまで、視察から帰って来ていた陛下に執務室に呼び出されてお土産話を聞かされていた。


  話が長すぎて退出する時に、すっかりその小さな白い存在を忘れてテーブルの上に置き忘れていたようだ。それを持って陛下が追い掛けてきたらしかった。


「きみも人のことを言えないじゃないか。やはりきみは……」


  ヨアキム殿下は、陛下が差し出した真珠の耳飾りと私を見て不快な素振りを見せた。そして後退りして「失礼します」と、その場から去って行った。



「なんだ。あいつ?」

「陛下のせいで誤解されましたよ。私」



  息子の背を見送りながら「可愛くない奴だな」と、呟く陛下の側で私はため息をつきたくなった。耳飾りのせいで誤解されたのは明らかだった。



「誤解? 何で?」

「女性の宝飾品を手におまえの忘れ物だなんて言われたら、寝室に忘れたのかと思いますわ」

「そうか、そうか。余もまだいけると言うことか?」

「知りません。でも、この一件で殿下から私が嫌われてしまったらどうしてくれるのですか?」

「耳飾りたった一つでか? そのようなもので壊れてしまうような仲なのか? おまえ達の仲は」

「まあ、不安定なことは確かですね。そうでなければ良いと思いますけど……」



  陛下は気にしすぎだと笑う。私は陛下のさっぱりした態度に促されてその場を後にしたがスッキリしない思いを抱えることになった。

  その後、誤解を解こうと何度かヨアキム殿下の元を訪ねたが会ってもらうことは出来なかった。


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