26話・やってやろうじゃないですか!
前世に思いを寄せていると、イヴァンが淡々と摂政姫ソニアが不出来な領主の代わりに、その地を一時的に治める事となり、川の氾濫を防ぐために防波堤を築き、いくつかの堀を設けて川の流れを分散し、干拓して農地を切り開いたと説明していた。
それを適当に聞き流しながら、私はソニアだった時に、深く反省したことを思い出していた。
あの頃の私は、摂政姫と持ち上げられていい気になっていて、自国のことを全て知っているかのような気になっていた。
貧しい少年に会い、領主をぶちのめした時も、自分の正義に従ってしたことで、まさか父王に怒られるとは思っていなかったのだ。
父としては領主がどのような悪人だったとしても、無難に税を搾取して納めてくれるなら大概の事は目を瞑ってきていたのだろう。
父王は私のしたことを知り、「なんてことをしてくれたのだ!」と、激怒した。領主を父王の許しなく勝手に断罪したことも気に食わなかったようで、出来るものならおまえが領主の代わりとなってその地を治めてみろと罵倒された。
熱くなった私は、売り言葉に買い言葉で「やってやろうじゃないですか!」と、啖呵を切って宮殿を飛び出し、自分がやろうとしている事は、口で言うほど容易ではないことを知った。
領地は貧しすぎた。前領主は領民達に何の対策も取らなかったせいで皆が毎日の生活に苦しみを覚え、お腹を空かせていた。私は目の前の領民を何とかしなくてはと必死になった。
取りあえずは領民のお腹を満たすために、栄養のある食材を配ることから始めた。
私はこの時ほど自分が王女であって良かったと思ったことは無い。彼らを救うためのお金になりそうな物なら幾らでも持っている。すぐに宮殿に舞い戻り、自分の部屋の中のたまりに溜まった衣装や、宝飾品を持ち出した。女官は何が始まるのかと怯えてみていただけだったので、誰にも見咎められずに持ち出すことが出来た。
私は王女としての肩書きを保つ為だけの、自分に似合いもしない豪華なドレスや、ダイヤモンドの首飾り、耳飾りなどをお金に換えて彼らに還元することにした。元は彼らの税金が姿を変えて私の手元に残ったものだ。それを彼らに返して何が悪いという思いしか無かった。
代理の領主に就任したので、面倒な夜会など出席する必要性も感じない。
これらを大金に変えた私は、パンや栄養価の高いミルクやバター、果実を他の地方から安く買い求め、領民達に支給することにした。
全ての領民にそれらが行き渡り、皆が元気になってきた半年後に、今度は陛下に交渉して私の持っていた巨額な結婚支度金を、領地改革の為の資金として提供してもらえないか交渉することにした。
陛下はそれを聞いていい顔をしなかった。結婚支度金を全額投資してそれが見込めなかった場合、どうするのかと聞かれて、その時は剃髪して修道院に行くと一筆書いて提出した。




