237話・後継者を育てる
取り調べが終わった後、まだ怒りが収まらなかった。ソニアへの醜い嫉妬から彼女の輝かしい未来を奪い、死なせた宰相が許せなかった。
「レナ。どうして先ほどは止めたのだ? あいつはソニアを、おまえを殺した奴だぞ。悔しくないのか?」
「そうね。あなたが私の為に怒ってくれたから、もういいわ。それにあんな男、殴るだけ無駄よ」
部屋に戻ってくるなり口を突いて出たのは行き場のない憤りだった。レナータに八つ当たりをする気はなかったが、語尾が強くなったような気がする。
レナータはそんな自分の心情を察したようで、あんな男は殴るだけ無駄だと言った。その言葉で冷静になることが出来た。情けない。二十六歳も年下のレナータに宥められるとは。
「レナにはみっともない所ばかり見せているな」
「そう? イヴァンの怒りは当然だと思うし、最後まで見届ける気でいたわ。でも、あんな自己中心的な男に弱みなどくれてやる必要も無いでしょう?」
「さすがはレナだな。どうしておまえはソニアではないのだろう?」
宰相がしでかしたことが残念でならなかった。この場にソニアがいたのなら、今すぐにでも退位して彼女の頭の上に王冠を載せてやりたかった。
「何を言い出すの? ヴァン」
レナータはきょとんとしていた。
「おまえがソニアだったならその頭に王冠を乗せてやりたかった」
「いらないわ。王冠なんて。私はソニアじゃないし、レナータだもの。あなたの隣がいい」
レナータは王として立つよりも、自分の隣で王妃として並び立ちたいと言う。
「それでもおまえの頭に輝く王冠を乗せたならどんなに映えただろうな」
「ヴァン、見た目よりも実力重視が良いわよ。そうでないとフランベルジュの二の舞になる」
「そうかな? レナータならあそこの王のように享楽に耽ることもないだろう?」
「今はそうでも後にどうなるか分からないわよ。人間って驕れる生き物だしね。驕り高ぶった私なんて見たくも無いでしょう?」
「いや、レナなら許せる気がする。見て見たい気がするな」
ソニアでは無理だった。だがレナータならどうだろう? 自分が王だから法を変えることも出来る。良い案のように思えた。ところがレナータは嫌そうな顔をしてきた。
「悪趣味よ。ヴァン。それにね、私思うの。王位とはやはりそれに相応しい人物がつくようになっているのよ。きっと」
「フランベルジュでは違ったようだが?」
「あそこは例外よ。その代わり配下が優秀だもの」
「我が国では優秀な配下が少なすぎる」
「これから育てていけばいいじゃない? あなたと私で」
レナータに王位を譲ろうかと思ったのに、彼女は後継者を育てていけば良いではないかと反論してきた。それも良い案ではある。二人の血を受け継いだ子に後を託すか。
「そうだな。時間はかかりそうだが手伝ってくれるか?」
「もちろんよ。そうじゃないと私達の子供や孫達が困るものね」
「レナ」




