236話・証拠隠滅の為に散った命の重さを知れ
「ブリギットさまを騙っていたあの女性とはどのような繋がりなの?」
「彼女はアルシエン国が送り込んできた間者でした。ブリギット殿下の命を狙いましたが、あの場で狙われているのは陛下だと思った本物のブリギットさまが咄嗟に担架で運ばれてきたイヴァン陛下に覆い被さった事で心臓を外れ、暗殺は失敗に終わり私の屋敷で侍女としてしばらく匿っていました」
「では彼女はイヴァンの命を狙ってはいなかったと?」
「はい。でもその事で皆の目が向いてそれ以上、ブリギットさまに手を下すことが出来なくなりました」
ブリギットは生前、兄と正妻には良く思われて無くて家を追い出されたと言っていたことがあった。兄に大層嫌われていると言っていたことから、アルシエン国王にとって妹のブリギットは目障りだったようだ。
「その後、陛下が即位され、私は予定通り宰相になりましたがその頃、ブリギットさまが身を寄せていた修道院の院長から密かに連絡がありました。修道院の裏庭にご禁制のレンゲアザレイアの花が咲いている。誰かが植えていたようだと。実はあの修道院にはアルシエン国側の間者が数名潜んでいました。ソニア殿下の殺害に使ったレンゲアザレイアの花は、修道院にいた間者が育てたものでした。あの花は繁殖力が強いらしく、ソニア殿下殺害後、花を刈ったはずなのに根が残っていたようで、再び花を咲かせたのです。それが陛下にばれたなら大事になると考えて修道院に火を付けました。焼いてしまえばいいと思ったのです」
「そして院長達が亡くなり、ブリギットさまのことを知る者がいなくなった。レンゲアザレイアの花を焼き払った後、どうしてブリギットさまの偽者を送り込んだの?」
宰相は証拠隠滅を図る為にそこに住んでいた人間も葬ったのだ。非道としか思えない所業だ。
「アルシエン国王はブリギット殿下が亡くなった事を知っていましたが、その事を国元には伏せていたからです」
「その頃はまだブリギット殿下を寵愛している前国王さまが存命中で、ロディオン王子も姉上さまに会いたがっていたから?」
「その通りです。しばらくブリギットさまが亡くなったのを隠しておく必要がありました」
「哀れよね。偽ブリギットも。暗殺者から修道女になって孤児院の子供達の世話をして手なずけたと思ったら、ロディオン王子に会って姉弟ごっこに、イヴァンに近づいて誘惑まで頑張ったのに報われないわね」
レナータが偽ブリギットに同情していた。
「あれも失敗した時点で、アルシエン国王には切り捨てられております。必要以上に語る事はないでしょう」
宰相は自分達の企みにアルシエン国王が関連していたことを、これ以上聞き出すのは無理だと語った。
「あなたはこれで満足して? 邪魔だと思っていたソニア殿下の命を奪ってまでも手に入れた宰相の座はどうだった?」
宰相はレナータがソニアの転生者とは知らない。それなのに指摘されて思うところがあるのが俯いた。
「あなたは満足できなかったのね? 今もまだソニア殿下の亡霊に取り憑かれているのではなくて?」
「そのような事はあり得ません。ソニア殿下が余計なことさえしなければ私はすぐに宰相になることが出来たんだ。それを王女という立場で面白半分に領地改革なんか行って、私の出世を阻んだ。殿下のせいで私はこの手を汚した」
レナータの言葉に顔を上げた宰相はまだ分からず屋だった。ソニアのせいでと言う宰相の言葉に、再び怒りが湧いた。人の命を何だと思っているのか。人の命はそう軽くない。
「この屑めが。まだ言うか?」
「宰相。人のせいにしないでくれる? あなたは机上の空論ばかり述べては、具体的なことはほとんど人任せだったわね? そんな人に宰相を任せられるわけがないじゃない」
「……」
「口で言うだけなら誰でも出来る事よ。ソニア殿下があなたの出世を阻んだというのなら、彼女を越える何かを自らの手でやり通してみれば良かったのよ」
レナータの言うとおりだった。宰相は彼女の言葉に項垂れた。
「ソニア殿下に恨み節を吐いている以上は、あなたは彼女を越えることは出来ないわ。ソニア殿下をそれだけ気にしていると言うことだもの。自分が叶わないと心のどこかで認めているから、悔しくて批難することしか出来ないのよ。そんなあなたのどこが彼女を越えたと言えて?」
レナータの指摘に宰相は悔しそうに唇を噛みしめる事しか出来なかった。




