235話・宰相の告白
「宝石姫の瞳ですか? 瞳の色が陽光の下と、夜では変化するということでしょうか? それは王の血を引く者の特性なのですよね?」
宰相は迷わず言った。そのことは一部の者にしか伝えていない秘密事項だ。現王である自分から話さなければその秘密を知ることはあり得ない。宰相に話した覚えはない。どうしてそのことを宰相は知り得たのだろう?
「その事は極秘事項だ。なぜその事を一介の宰相に過ぎないおまえが知っている?」
「それは……」
これまでよどみなく答えてきた宰相が初めて言い渋る様子を見せた。取調室に無言が満ちる。その中、レナータの声が上がった。
「それはあなたが執務室に掲げてあった絵の中に隠されていた物を発見したからでしょう?」
「妃殿下」
「レナ?」
「ここまで話したのだからもう正直に話した方がいいのではなくて? 宰相」
執務室の絵? 執務室には父王一家の絵が掲げてあった。その絵に隠されていた物?
レナータは宰相をねめつけていた。
「……私はソニア殿下が幽閉された後、執務室を片付けに向かったのです。そこに掲げてある一枚の絵を取り外そうとして、その絵の裏側に何か挟まっているのに気がついたのです」
宰相は「神よ」と、天を仰ぎ懺悔するように自分の罪を語り出した。
「それは一通の書状でした。ソニア殿下を次期王に推すと書かれた先々代の王の遺言書でした。それを見て頭の中が真っ白になりました。ソニア殿下はすでに囚われの身とはいえ、彼女を慕う者達は大勢いました。我々の起こした事に納得の行っていない者は暴動を起こしかけていた。どうにかして彼女を助けようとする動きも見受けられました。書状がそういった者達の目に触れれば形勢が逆転しかねない。私はその事を恐れました。それが見付かれば我々の未来はない。それを見つけたのは幸いにも私一人。私が目を瞑れば無かったことに出来ると証拠を隠滅する為、書状を暖炉にくべ……」
宰相の告白に怒りがこみ上げてきた。姉のソニアがもしかしたら王位に就けたかも知れなかったのだ。このクロスライト国で初めての女王が誕生したかも知れなかったのだ。
それをこの男が。そう思うと許せなかった。
怒りのままに拳を振り上げ宰相を殴りつけた。
「おまえは何と言うことを……! おまえはソニアをっ」
「ヴァン。落ち着いて」
「レナ」
肩を両手で掴み揺すぶると「ひぃっ」と、怯えたような声があがった。こんな小心者のせいでソニアの人生は歪められたのか。
こいつのせいでと思うと悔しくて堪らなかった。その自分に落ち着いてとレナータが声をかけてくる。ふらふらと彼女の側に近づくと、自分に代わってレナータが聞いた。
「宰相は自分のしでかした事がいつの日か露見することを恐れていたのね?」
「私は初めてレナータさまにお会いした時、その瞳が変化する事を知り、もしかしたら亡き王達の怒りに触れたのではと恐ろしくなりました。自分が証拠を隠滅したはずの王家の秘密が、イヴァン陛下に引き寄せられるように現れたのです。偶然とは思えなくなりました。そのうち自分がした事がばれるのではないかと怖くなり、レナータさまを殺害しないことには己の心の平安が来ないとまで思い詰めてしまいました」
宰相はレナータの殺害動機を話し、暗殺未遂を企んでいたことも認めた。ソニア殺害の主犯でもあった。




