234話・反対する理由がなかった
そこへタイミング悪く、ソニア殺害を認めた所でレナータが来てしまった。彼女は離れたところからこちらを見ている。レナータの心情が気になった
「ソニア殿下の殺害にレンゲアザレイアの花蜜を使用しました。殿下なら領民の志を無碍にしないと分かっていたからです。ワインに毒を仕込みました」
レナータから聞いていたとおりだった。彼女は前世の自分の死にレンゲアザレイアの花蜜が関わっていたのではないかと疑っていた。
「私にとって亡きソニア殿下は邪魔者でしかなかったのです。私はあの頃、次の宰相の座を約束されておりましたのに、イラリオン王太子が王位に就かれ、いざ蓋を開けてみるとソニア殿下が摂政になる事が決まり、私はそれを支える副宰相の地位に留められていました」
宰相はイラリオン王とは学友だったと聞いたことがある。優秀な彼はきっとイラリオン王のすぐ側で仕えることを夢見ていたのだろう。それを横からソニアに奪われたように思ったのかも知れなかった。
「そこでソニア殿下を側に置くイラリオン陛下を恨み、ソニア殿下を追い落とす為に、彼女の事を気に食わなく思っていた者達と手を組んだと申すか?」
「はい。アニスさまとラーヴル将軍に、あなたさまを王位に就かせるために協力しても良いと近づき、事の暁には宰相の地位をもらう約束になっていました」
宰相は自分の願いを叶えるために王位簒奪に手を貸したと述べた。アニスたちの目的はハッキリしている。愛妾の子であった自分を王位につけること。その為に宰相の申し出は渡りに船だったようだ。
「しかし、私は陛下を甘く見ていました。アニスさまの息子であると言うことから、思うように事が進むと思っていたのに当てが外れました」
「傀儡に出来なくて残念だったな。余が粛清を始めて恐れたのか?」
「はい。まさか陛下がご自身を王位に就けるのにご尽力したご母堂や、将軍をいの一番に処刑されるとは思いませんでしたから」
「余がおまえの思惑通りに傀儡の王と出来なかったのは残念だったな」
「とんでもない御方を王位に就けてしまったと思いました。そして次に粛清されるのは自分ではないかと恐れを抱きました」
「そこで余の機嫌を損ねない為に、自分の配下の娘を宛がおうとした」
「保険です。陛下は前王妃殿下と仲はあまり宜しくなく、妃殿下の産後は離宮へと追いやられてましたから、チャンスはあるのではと思い込んでおりました。しかし、レナータさまが現れてその願いも叶わなくなりました」
それにしては多少疑問が残る。宰相としては何としても自分の息の掛かった娘を王である自分に宛がいたかったはずなのに、レナータが現れて諦めたような感じがあったのだ。
「おまえは自分の息の掛かった娘を余の側に置くことを考えていたと言った。それなのに余がレナータをお気に入りとして側に置き始めたときも、ヨアキムの許婚と定めた時も、王妃に迎えた時も反対しなかった。それはなぜだ?」
「私はレナータさまが王家の血を引く御方だと知っておりました。反対する理由などなかったのです。貴族達の中で、陛下は簒奪して王位を得た御方だと思っている者達が多い。反王制派を抑え込むためにイラリオン陛下、もしくはご兄弟の血を引く娘を保護したのではないかと思ったからです。レナータさまの事を陛下は宝石姫と呼んで大切にされておられましたから」
「いや、おまえはレナータに初めて会った時から何かを確信していたように感じられた。レナータに会う前から宝石姫の秘密について知っていたのではないか?」




