233話・おまえの夫は嫉妬深い
「死んだはずの女を蘇らせて、余を揺さぶるつもりだったのだろうな。失敗したが」
「イヴァンはそんなことで揺らぐわけがないのにね」
「おまえという最強の守り神が側にいることをあそこの王は知らないからな。しかし……」
あの国の王はブリギットに嫉妬していた。それを認めたくなさそうだが。
それよりもレナータの言動にはハラハラさせられた。レナータがあんなことを言い出すとは思わなかったから。
「王配だなんて、肝が冷えたぞ」
「あれは鎌をかけただけよ」
けろっとして言うレナータに腹が立つ。どんな思いで自分があの場にいたと思うのだ。
「おまえが余以外の者を夫に迎える気だったとはな」
「違うわ。そんなこと望んでなかったから。相手がその気になったとしても上手く躱す気はあったもの」
「許せんな。軽くそのようなことを口にするとは」
「ヴァン?」
「そのような事を二度と言えないようにしてやる」
「な、なに?」
目の前のレナータが憎たらしくなってきた。自分の心をこんなにも乱してくれるのに、本人はそれを大事と考えていない。平気なのだ。それが許せなかった。
レナータを肩に担ぎ上げると驚きの声が上がった。寝室まで運ぶとベッドの上に落とす。
「何するの? ヴァン?」
「お仕置きだ。おまえが軽々しく余以外の夫を迎えるなんて言えないようにする」
「やっ。ヴァン……」
「おまえの夫は誰だ?」
「ヴァンよ。後にも先にもあなただけっ」
首筋に顔を寄せると怯えるような声がした。
「よく分かっているじゃないか」
「ヴァン」
おまえは自分の物だというように細くて白い首を強く吸い上げれば甘い声が上がった。
「おまえの夫は嫉妬深いんだ。覚えておけ」
「そんなこと言われなくとも分かっている。お返しね」
お返しのようにこちらを強く引き寄せて、首筋に噛みつくようにキスしてくる。その彼女を深く抱きしめるべく背中に腕を回していた。
後日、宰相の取り調べを行った。ソニア殺害の疑いもある。ソニアの記憶を持っているレナータに同席させるのは酷に思われて別に同席しなくてもいいと言っておいたが、彼女は王妃として見届けると言ってきた。
色々ときな臭い所のあった宰相だ。取り調べでは抗うかと思ったが取り調べが始まってすぐに自分の罪を認め始めた。
まだレナータはこの場に来ていない。身支度に時間がかかっているのだろう。この分では取り調べが終わった頃に顔を出すことになるかと思っていた。
「では認めるのだな?」
「はい。私がやりました。以前からアルシエン国の王太子とは……、アルシエン国王とは連絡を取り合っておりました。私は摂政姫として名高いソニア姫に嫉妬していたのです」




