229話・余の命を狙った者
「余はこのロディオンの動きが気になってこいつの仲間に紛れ込んでいた」
「ブリギットさま。どうしてこちらに?」
陛下の偽者と一緒にいたはずなのに、わざわざ飛び出して来た私の後を追ってきたの? とレナータは首を傾げる。
「義姉上」
「ロディオン」
ロディオンはブリギットに近づき、彼女の盾になるように前に立った。
「済まなかった。この通り謝罪する。この件に姉上は関係ない。姉上は何も知らない。この件で問うならば俺だけに。頼む」
「ここまできておいてブリギットさまは関係ないと? 宰相の養女となりイヴァンに近づいたのは、私を殺した後でこの国の王妃となる気だったのでしょう?」
腹立たしそうにレナータが言う。ブリギットがやらかしたことをロディオンが謝罪してくる。偽者に心をたやすく掌握されている王子に呆れる。後ろに庇われている女は王子が庇うほどの価値もないというのに。
「我らもずいぶんと舐められたものだ。ブリギット嬢。おまえがアルシエン国から送り込まれた間者だというのは分かっている」
「違います。わたくしが間者なんて。酷いわ。ヴァン。わたくしを信じて」
「おまえと再会した時から疑っていた。今まで気を惹くふりをして調べさせてもらっていた」
「あなたの事を騙してなんかいません。わたくしは何もしていません」
もうこちらに手の内がばれているというのに、彼女はがんとして認めるのを拒む。
「おまえは聖職者の仮面を被りながらご禁制であるレンゲアザレイアを密かに栽培し、販売していたな?」
「何を言うの? ヴァン。わたくしがそのような事をするはずがないわ」
「陛下。姉上がそのような事をするわけがない。何かの間違いだ」
どうやらロディオン王子は兄王の企みとは関係がなさそうだ。姉のブリギットを慕う気持ちを利用されたようだ。今、そのことを指摘しても受け入れなさそうだ。
別の路線から攻めることにした。ブリギットの被った仮面を剥がすことにしたのだ。
「宰相はアルシエン国からレンゲアザレイアの花の種を入手してあの修道院でその種を育てさせてきたのに? そこにいたおまえは関係ないと?」
「ヴァン。それは……。修道院の経営が成り立たなくなった時があってその……、孤児院の子供達にひもじい思いをさせたくなくてつい、魔が差したのよ」
「それでご禁制のレンゲアザレイアを栽培していたと? 余も馬鹿だった。あの修道院には怪我が完治するまで身を寄せていたのに、花の事を良く知らなかった為にまさかすぐ隣でレンゲアザレイアの花が栽培されていようとは知らなかったのだからな」
「もしかしたらヴァン、あなたが再会したときに修道院まで送ってくれたのは花を確認する為に?」
「いや、単純に懐かしい顔に会って確かめたくなった」
この言葉にブリギットの顔色がどんどん悪くなっていく。
「余の命を狙った者がおめおめと生き延びている理由をな」
「……!」
レナータはロディオンの様子を窺っていた。




