228話・謝罪はいらない
「分かったよ。おっさん。そう怖い目で見るなよ」
「最近の若者は目上に対する言葉遣いがまるでなっておらんな」
「失礼しました。クロスライト国王陛下」
ねめつけるとロディオンは慌てて言い直してきた。太々しい相手だ。全く好感が持てない。
「さあ、おまえの知っていることを吐いてもらおうか? ロディオン王子。この件には貴殿の兄、アルシエン国王はどこまで関わっている?」
「吐いても良いが、無駄じゃないか? 兄上を問い詰めることは出来ないぞ。あの兄のことだから、都合の悪くなった俺の事は切り捨てるだろうからな」
頭の中が軽い割には冷静に分析する事は出来たようだ。しかし、その後レナータが言った言葉に落ち着きを無くすことになる。
「そうかしら? 別に人質はあなただけとは限らないわよ」
「まさかあんた! ブリギット姉上を?」
レナータはほくそ笑んだ。影を宿した笑いは怪しげで美しく感じられた。
「やはりブリギットはアルシエン国の王女殿下でしたか」
「でも姉上は俺たちとは違って正妃の子ではなく側妃の子で……」
「宰相が養女にするぐらいの相手ですからそれなりの身分がある御方だとは思っていました。ソニア殿下が亡くなられるきっかけとなった政変に乗じて起きた国境の争いとはブリギット絡みなのでしょう? 陛下」
「レナータ。おまえには全て終わってから話すつもりだった」
「酷いですわ。私だけ蚊帳の外ですの?」
レナータがふて腐れるように言う。聡明な彼女にはいくら隠したところで誤魔化せるとは思っていない。それでも危険事にこうして首を出されるとハラハラしてしまう。自分が平静でいられなくなる。
二十六も年下の王妃に翻弄され続けている。この先もきっとおまえからは目が離せないのだ。
腕の中のレナータを手放す気もなく抱きしめていると、廊下から制止する声とそれに抗うような声がしてきた。いつぞやの某国の王女のことを思い出す。また似たような場面が展開しそうだ。
「レナータさま。ごめんなさいっ」
「ブリギットさま?」
レナータが目を丸くする。どうしてここにブリギットが? と、こちらを見上げてくるが苦笑いしか返せない。ブリギットの側にいたのは自分の影武者。そのことはブリギットは知らないし、レナータにも明かしていなかった。
「陛下? なぜここに?」
部屋に飛び込んで来たブリギットは大きく目を見開く。それでも自分で考えてきた筋書きを言葉に乗せようとしていた。
「あの。レナータさま。どうかお許しになって。その……陛下とのことは誤解で……」
「ああ。あの執務室でのことですか? イヴァンにキスされていたようには見えましたけど……」
レナータにはこれで全容が見えてきたようだ。ブリギットが言う陛下とのこととは影武者のことで、本物はこうしてロディオンの配下の者に紛れていたということを。
自分が姿を借りたロディオン配下のイリヤという男が寡黙で良かったと思う。体つきが似ていたので成り代わったが今、彼は牢屋に事情徴収の為囚われている。
「別に謝罪はいらんぞ。ブリギット。おまえが今まで一緒にいた相手は余の影武者だからな」
「……!」




