227話・レナータは渡さない
「妃殿下。その事をどちらで? ソニア殿下はワインの毒で亡くなられたと聞いておりますが」
「そうね。事実を知るのはそれを企んだ者と仕込んだ者しかいない」
おまえがやったことはお見通しだとレナータが言ったような気がした。彼女は宰相の関与を疑っていたのだ。
忌々しい男を前にしても彼女は怯まなかった。
「宰相。いい加減、腹を括ったらどうです?」
「妃殿下。何を言われているのか私にはさっぱり……」
「抗うというのね。仕方のない人ね」
レナータはため息を漏らした。宰相の態度が見苦しいとばかりにそれでも睨むのを止めなかった。
そこで再び空気の読めない男が口を挟んできた。
「妃殿下。話の流れが良く分かってないがでも、あんたのことは気に入った。王配って事はあんたが王になる気なんだろう? その夫に俺はどうだ?」
レナータは更に深いため息を漏らした。馬鹿なんだろうか? この男は。とでも言いたそうな顔だ。
お目出度いことにロディオン王子はレナータを不愉快にさせたことに気がついてないようだった。
「そうですねぇ。王子には教えてあげましょうか? 王家の秘宝の秘密を」
「本当か?」
「妃殿下!」
喜ぶ王子とは逆に宰相が止めに掛かろうとする。その宰相に不自然なものを感じた。
「そういえばねぇ宰相。私、ある物を探しているの。この額縁の裏に隠されていたはずの物をね」
「あなたさまがどうしてそれを……?」
「ソニア殿下の父王陛下は大事な物を額縁の裏に隠すのが癖だったのよ」
「……!」
「宰相ったら、正直ね。どこの馬の骨が産んだとも知れない娘がどうしてその事を知っているのかという顔をして」
レナータはにやりと笑った。自分はそのようなことは知らない。執務室にずっと掲げてある父王一家の肖像画の裏にそのような仕掛けがあった事すら知らなかった。
それなのに宰相の顔はどんどん青ざめていき、何も知らないはずがないのを物語っている。
レナータは追及の手を止めなかった。彼女はもう宰相を見逃す気はないのだ。そこにはよっぽど重大なものが秘められていたのだろう。
「あなたは真相を知っていたのよね? 額縁の裏に隠されていた情報によって。あなたの考えているとおり私は先々代の王の血を引いているわ。私の祖父だもの。陛下は公表しなかったけれど私こそがアレクセイ殿下の娘よ。瞳の色が証拠よ」
「本物か!?」
隣国アルシエンでも、アレクセイ殿下の娘を騙っていた女の話は伝わっていたようだった。その本物の娘を前にしてロディオンは興奮していた。
「あんたすげぇよな。ますます気に入った。俺の嫁になれよ」
「それはお断……」
ロディオンがレナータの手を掴む。これ以上、黙っていられなかった。気がつけばその手を振り払っていた。
「レナは誰にもやらん」
「おまえ、イリヤじゃないな。何者だ?」
今頃、気がついたのか。馬鹿な王子め。そのイリヤはおまえの代わりに牢屋に繋がれて拷問を受けている最中だ。
「陛下!」
「宰相。おまえは後で尋問することにする。後ろ暗い事が沢山ありそうだな。おい、連れて行け」
自分の正体に気がつき、慌ててその場に跪いた宰相を影らに拘束させて連れて行かせた。
「ヴァン」
「へぇ、あんた陛下か」
腕の中にレナータを囲んでしまうと、アルシエン国の王子が羨ましげに見てきた。
「もしかしてさ、王家の秘宝ってそのあんたの瞳の事?」
「ご名答」
「なるほど。だから誰も手にした事がないのか。してやられたな。ますます欲しくなる」
「レナータはやらんぞ」
腕の中のレナータに話しかけてくる王子に、彼女の代わりに答えてやる。ちゃらい男だ。レナータにそれ以上、近づけさせる気もない。




