225話・あなた王配にならない?
宰相としては、相手は王妃とはいえどたかが十六歳の小娘。手懐ける気でいたのがレナータの態度で無理だと悟ったのだろう。自分のお気に入りとして六歳から宮殿に出入りしていた娘だ。その事に早くも気がつきそうなものをと思えば、宰相は自分を通してでしかレナータと接触がなかったことを思い出した。
そのせいでもしかすると、彼から見たレナータは王の影に隠れた大人しい王妃にしか見えてなかったのかも知れなかった。
このことで認識を改めるだろうがもう遅い。彼にはこれで打つ手は全てなくなった気がする。彼がこれから相手にするのは十六歳の聡明な王妃だけではない。彼女には前世摂政姫としてこの国を支えてきたソニアの記憶や実績もある。
そんな相手と対峙するのだから実に気の毒としか思えなかった。自分も余裕でいられたのはここまでだった。レナータは自分の考えを遙かに超していた。我慢を強いられることになろうとはこの時点で気がついてなかった。
執務室に来るとレナータはソファーに腰掛けるなり言った。
「イヴァンなら戻らないわよ。ブリギットをけしかけて戻って来てもらうつもりだったみたいだけど、彼女では力不足よ」
「妃殿下を不快にさせたようで申し訳ありません。幾重にもお詫び申し上げます」
「結構よ。この後、殺されるなんて堪ったものではないわ」
「妃殿下」
宰相はレナータの発言から嫉妬した王妃が乗り込んできたと思い、謝っておけば済むとでも思ったのだろう。しかし、レナータが嫉妬ぐらいでに乗り込んでくるような可愛いだけの女ではないことを自分は良く知っている。彼女には何か目的があるのだ。
表向き夫に女を近づけさせようとした宰相に文句を言いに来た風に見せながらもそこには何かある。
「そのような場にあなたさまは単身乗り込まれてきたと言うことですか?」
「そうよ。あなたと取り引きにきたの。まどろっこしいのは好きじゃないわ」
レナータは宰相を見据えた。
「あなた王配にならない?」
この場が時を止めたような気がした。自分は護衛の一人としてその場に控えていたが、レナータの言葉に打ちのめされた。
王配? レナータが王となる? その夫に宰相を? そんな事を彼女が言い出すなんて思ってもみなかった。それは宰相も同じだったようで驚いていた。
「何をおっしゃるかと思えば……。一介の王妃に過ぎないあなたさまが大きく出たものだ」
そう言いながらも宰相の顔色が悪いのが気になった。
「その王妃を殺して自分の息の掛かった娘を陛下の次の王妃にと考えるぐらいなら効率が良いのではなくて?」
この場にいる者はレナータの素性を知らないが為に、王妃がとんでもないことを言いだしたと思うだろう。宰相は躊躇していた。
「イヴァンには単なる見目の良い女だけでは駄目だと、今度は思い出の中の教養もある女を言い寄らせて揺さぶる気だったのよね?」
でもあの女はないわとレナータは呆れていた。
そこへ話の流れの見えない男が口を挟んだ事で話がややこしくなる。




