222話・疑い
「それは宰相に吹き込まれたのか?」
「お義父さまは関係ないわ」
自分の嫌みに気がついて、慌てて否定するがみっともないものを感じた。
「そういえばブリギットさまは還俗なさったの? 宰相のことをお義父さまと呼ばれているようだけど、どのようなご関係なの?」
「わたくしはつい最近、還俗致しました。宰相様は修道院の院長さまのご友人のご関係で身元引受人となって下さり、わたくしを養女にして頂いたのです」
「そうなの。てっきりブリギットさまはあのまま修道院のおられるのかと思っていたわ」
「余もそう思っていた」
レナータの言葉に思わず同意してしまう。本人ならそうしていたはずだからな。
「昨日は人払いまでしてお二人でどのようなお話を?」
「それはここでは言いにくいな。後で話してやろう」
ブリギットは照れたように俯く。その態度にそれは彼女の芝居なのかどうか読めない。もしかしたら影武者との間に何か起きたのではないかと嫌な予感がした。
取りあえず食事が済むと、その場から邪魔者ブリギットを女官に預けて追い出した。
「昨晩は悪かった。ブリギットを滞在させる事を勝手に決めて怒っているのか?」
「怒ってはいません。ただ気になって」
「何をだ?」
「先ほども言いましたが、人払いまでして彼女があなたに何を言ったのか気になったものですから」
「おまえが気になるのは仕方ないか。ブリギットは宰相が差し出した人質だ。宰相は余が過去ブリギットに抱いていた想いまでご存じのようだ」
それを利用しようとされたのには腹が立つ。
「その想いを利用しようと?」
「彼女を側室、もしくは愛妾に召し抱えてもらえないかと打診してきた」
その言葉にレナータは無表情になっていた。内心怒り狂っていたとしたら怖い。
「断るのでしょう?」
有無を言わせないような言い方だった。このような憤り方はソニアと同じだ。
「勿論だ。おまえの命を狙っておきながら厚顔無恥にもほどがある。宰相の狙いが読めなくて取りあえず側に置いている」
「それだけですか?」
「どういう意味だ?」
こちらの手の内は全て話したというのにレナータの顔は晴れなかった。そういえばブリギットと自分が共にいるのを見たときからいい顔をしていなかったと今更ながら気がつく。
「今朝方、彼女の部屋からあなたが出て来たのを目撃した者がいます。それが噂になっていましたわ。あなたは寝室に戻ってこなかったですし、ブリギットさまはあなたの愛人ではないかと」
「馬鹿らしい。昨晩は寝室に戻って来たぞ。深夜になってしまったし、おまえを起こすのも不憫に思われて寝せておいた。それと朝は早かったからおまえとはすれ違っただけだ。まさかそのような噂を信じてはいないよな?」
レナータは自分がブリギットと関係を結んだのではないかと疑っているようだった。そんな事はあり得ない。夜は必ずレナータの側にいるのだ。
なぜそのようなことに? と、思っていると彼女には自分の影武者に対応を任せていたことを思い出した。もしかしたら影武者が深い仲になったのか?




