218話・宰相の更迭計画
ある日、レナータの元へ顔を出そうとすると、女官からテオドロスの妻であるディアナが来訪していると告げられた。
この山城に来てから毎日のようにテオドロスを城へ呼び出す機会が増えた。なぜなら彼にはこの山城の裾野にある王都に館を与えているので、そこから出向いてくるのだ。
初めはその夫のテオドロスに付き添い城へと出向いていた彼女はレナータに引き合わせてから意気投合し、二人で良く会うようになった。
テオドロスは自分の中では、彼は忠臣で一番の配下である前に気心知れた友人でもある。その彼の妻とレナータが交流を持つのに心配はなかった。
レナータとディアナは誰の目から見ても年の離れた姉妹のように仲が良い。そのディアナに、レナータが心配事を漏らしていた。
レナータはイヴァンが隠し事をしているように感じられてならないと零していた。自分としてはレナータには余計な心配をさせたくなくて黙っていたことが彼女の不安を煽ったようだった。
自分の後に付いてきていたテオドロスと顔を見合わせ苦笑する。
ディアナにも事情は説明してないが、彼女は夫を信じていた。レナータにも自分は何も聞かされてはいないが、夫と陛下はきっと何かに二人で立ち向かっているに違いない。何かあれば報告があるはずだからそれまで待とうとレナータに言っていた。
テオドロスがどうするんだ? と小声で聞いてくる。こうなれば下手に隠すよりもレナータに話してしまった方が良いのだろう。
「そうか。レナはこれにヤキモチを焼いていたのか?」と、部屋に入れば自分が入ってくるとは思っても無かったレナータは目を丸くしていた。その隣でディアナが頭を下げてくる。
「悪かったな。レナ。おまえには全てが終わってから報告するつもりだった」
「イヴァン?」
「今度、宰相を更迭する。その後釜にはこれを据える」
「イサイ公爵が宰相に? 将軍には誰を?」
レナータはテオドロスが将軍になるものと思い込んでいたようだった。テオドロスを宰相にすると聞き、では次の将軍は誰が? と、聞いてきた。
「副将軍を昇格させる」
その言葉に納得したような顔をする。軍の統制は新たに組み直すよりも慣れた者に引き継がせた方が、効率が良い。副将軍なら今まで将軍だったキルサンの下でやって来た実績もあるし、配下の者達も言うことに従いやすいだろう。
まだ何か聞きたそうなレナータの雰囲気を察したのか、 テオドロスは「では我々はこれで」と、妻のディアナを連れて退出した。
「宰相を更迭って、彼は何かしたの?」
レナータが恐る恐る聞いてくる。彼女は大体のことを察しているように思う。でも聞いてくるのは「まさか宰相が」という思いがあるように思われた。
「宰相はおまえの殺害を企んでいた」
「……! いつから?」
自分の言葉にレナータは言葉が詰まる。それでもまだ信じられない様子だった。
「おまえが王妃となってからずっと狙っていた」
「でも、私は何でもないのに……?」
レナータは訝る。今まで何事もなかったのになぜ?と。でも、ゲラルドに持ち歩くように勧められた銀のスプーンに思い当たり察したようだ。
「まさかゲラルドやセルギウスは……?」
「奴らは毒の扱いに長けた一族なのだ。彼らは王族の侍従として一目置かれてきたが、それは王の側にいて毒から王の身を守るためだ」
「知らなかった」
ソニアだった時もそんなこと聞いてないと言いたげだった。




