216話・黒い領地の変貌
「レナ。分かるか?」
「……!」
食事の後、城の屋上へと連れ出し展望させるとレナータが息を飲んだ。昨夜はこの山城の裏側から入場した為、ここからレナータは初めて見ることになる。
ここから見えるのは大きな港と、水路が行き交う街の姿だ。
「水の都……?!」
「どうだ? 大きいだろう?」
「イヴァン。これはあなたが?」
こんなにも大きな都市を? と、レナータは目を見開いていた。
「広大な土地があるのに遊ばせているのは勿体なかったからな」
「でもこの地は泥地だったのにどうやって?」
レナータの疑問は当然だった。以前、ここは泥地で遠目に見ても暗さが分かるぐらい黒かった。この地は大河の河口に接していて、大昔から頻繁に洪水を起こし、土地が土砂や泥に埋まってきた。
かなりの土地があったが、農作物を作るには適さない地の為、王領にはなっていたが歴代の王達は手を付けずにいた。
姉のソニアのノートにはこの黒い領地についても触れていた。何かに活用できないか。国民の為に還元出来る事業で何とかこの地を生かすことは出来ないかと悩んでいた。それを読んで気になった。ソニアも自分と同じことを考えていたからだ。
もともとこの黒い地には辺境部隊に身を置いていたときから考えていた。この地は遠目からも目に付いた。この周辺に住む農民達は、満足な収入をえることも出来ずに痩せこけていていた上に災害に振り回されて疲れ切っていた。彼らを救いたい思いが強かった。
戴冠の最中もその事は気になっていた。そして閃いた。
あの地を港にしたらどうかと。良い案のように思えた。そのままの土台では心許ないのなら埋め立ててしまえば良い。まずは土台作りから始めよう。思い立ったら黙っていられなくなってすぐにテオドロスを呼び出していた。
あれから十数年の歳月をかけて水の都は誕生した。ここならば他国から船を迎え入れ、送り出す事も可能だ。今住んでいる宮殿は国の中央とは言えない。しかも雪深い場所にある為、他国から使者を迎え入れるにも二、三日移動に時間が掛かってしまう。
他国の情報を手にするにも移動の日数が掛かりすぎてしまう。それが時間の無駄に思われてならなかった。
港に拠点を置くのもありかと考え、水の都の中心に宮殿を置くことにした。ここから見る水の都は大地に描かれた鷲の姿をしていて、両羽を広げた形をしていた。
「素晴らしいわ。イヴァン。埋め立てて都を作ったのね?」
「気に入ったか?」
「ええ。さすがね」
レナータが興奮していた。前世の自分がやり残したように思っていたものが、こうして形となって喜んでいるようだ。




