214話・気の毒な宰相
「大方、愛妾の産んだ先王の血を引いているか分からない余よりも、先王の従兄であり父を王弟に持つ公爵が王位に就くのが望ましいと吹き込まれたんだろうよ」
「ご名答」
「宰相としては自分の手駒となる娘を王妃か側妃にして子供を産ませ、外祖父として実権を握りたかったようだからな」
「ヴァンはなんだかんだ理由をつけて頑なに結婚を拒んできたからな。誰とも結婚しないと言っておいてのお気に入りのレナータ嬢との婚姻だから、宰相にしてみればしてやられた気がして面白くなかったんだろうな。推していた遠縁の娘は、セルギウスの息子にくれてやったし。だからあの爺さん、トップの首をすげ替えることを目論んじゃったか」
もうここまで来ると老害でしかないなとテオは呟く。
現在、宰相がイヴァンに推してきた娘はレナータの侍従長のゲラルドの妻に収まっている。二人とも政略結婚であるのに仲睦まじくしているのだけが救いだ。
「しかしさ、いつからここを手入れしていたんだ? 俺らが入場する前から色々と整っていたみたいだけど?」
「戴冠してすぐだ」
「それは随分と用意のいいことで。しばらく遊んで暮らせそうだ」
テオドロスは感心したように言うが、本当は使う機会などなければいいと思っていたし、もしもの事を考えて装備していただけだ。まさかこうして使う時が来るなんて先を見越してしまったような気分だ。
気持ちの良いものではなかった。
「備蓄品がたまりに溜まったから移したまでだ」
「いや、宮殿にも結構な数あったよな?」
「こちらに移した」
テオドロスは宮殿で留守を任せていた。宮殿の備蓄量も相当なものだったと言うが、自分達が出立する前にあれを全部こちらに移したと言えば目を丸くしていた。
「はあ? その事を宰相は?」
「今頃、気がついているかもな。もって二日だろう」
兵糧攻めにしたと言えば、テオドロスは苦笑した。
「宰相も気の毒に」
その言葉にはおまえを敵に回したくはないなと言われたような気がした。
自分は長々とこの件を引きずる気はなかった。二日でケリを付ける気でいる。宰相の行動を見て見ぬふりをしてきたのは相手を泳がすだけではなく、気を緩ませた所で一気に終わらせる気でいたからだ。
相手は身の程知らずにもレナータの命を狙ってきた。そう簡単に許してやる気はしない。
「来週にはケリがつく。忙しくなるから覚悟しておけよ」
「御意」
宰相を処分した後は、おまえに後釜を任せようと思っている。頑張れよと発破をかけたなら腹を括ったらしく、了解と言葉が返ってきた。




